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柔道を深く学び、広く伝える方法 -河井大介氏(栃尾柔道倶楽部)

絵本の読み聞かせや柔道遊び、CMづくりなど、独自の手法で柔道の魅力を伝える栃尾柔道倶楽部の河井先生。その取り組みは、2023年10月下旬にテレビ番組BSフジ「JUDO」に取り上げられました。その河井先生をお招きしてさらに詳しくお話を伺いました。

目次

1.栃尾柔道倶楽部の概要
2. 絵本で「精力善用自他共栄」を伝える
3.柔道CMなどで考えを言語化する機会を作る
4. 柔道遊びイベントで新規メンバーを募集
5. 保育園や福祉施設への訪問
6. 柔道の可能性

1.栃尾柔道倶楽部の概要

司会
栃尾柔道倶楽部の概要を教えてください。

河井
私たちの道場は長岡市の地域にあります。人口約1万6000人、高齢化率は40%程度と高めで、子どもの数も年々減少している状況です。 クラブの練習体制については以下のような構成になっています:
– 園児(年少):毎週木曜日19:30-20:15(45分間)
– 小学1-2年生:水・木曜日
– 小学3-6年生:火・水・木曜日
– 中学生:火・水・木・土曜日(土曜は午前中)

現在の部員数は全27名で、内訳は以下の通りです:
– 園児:6名
– 小学生:13名
– 中学生:8名

司会
園児が6名は多いように感じます。園児が多い理由は何かありますか?

河井
今年の春に一気に9名ほどの入会があり、そのうちの半分が園児でした。園児クラスは、現在の高校2年生が小さい頃にスタートしました。きっかけは、当時、小さい子どもたちが柔道場の雰囲気に馴染めず、来てもすぐに帰ってしまうことが多かったことです。そこで、小学生として入る前の段階で、畳の上で遊ぶという感覚で運動遊びをする時間を作ることにしました。 

2. 絵本で「精力善用自他共栄」を伝える

司会
「精力善用・自他共栄」を子供に伝えるため、オリジナルキャラクターやストーリーを作り、絵本を制作して、読み聞かせをしているとのことでしたが、どんなお話を作ったら、子供たちに精力善用・自他共栄は伝わるのでしょうか?

河井
絵本を作る前から、「精力善用・自他共栄」を子供たちに言葉で伝えてきたのですが、園児や小学校低学年の子供は、語彙力や言葉の理解力を考えると、聴覚だけでは難しいと感じていました。そこで、視覚と聴覚を合わせて、さらにその発達段階に合わせて伝えたいと考え、絵本にしました。 ストーリーは、子供たちが普段経験していることや見たことがあるものを題材にしています。例えば、テレビでも紹介された話は、子供が両親のお手伝いをするかしないか、で葛藤する内容です。精力善用・自他共栄、自分のためだけでなく、相手のためになることをできるか、これをお手伝いという具体的な形で表現しています。 現在、絵本を3作品作っており、キャラクターにも性格を持たせ、それぞれのキャラクターに合った場面設定を心がけています。また、子供たち自身の体験も聞きながら、今後のストーリー作りに活かしていきたいと考えています。

司会
そもそも「精力善用・自他共栄」は柔道をすると身につくものなのでしょうか?つまり、そのお手伝いをするかどうかという迷う場面で、柔道で培った力は実際に役立つものなのか、その辺りはいかがでしょうか?

河井
(柔道をしているだけでは)実際には難しいと思います。指導者が、子供に対して、技術や勝負だけでなく、思いやりの心、相手を大切にする気持ち、尊敬する気持ちを伝え、また、精力善用自他共栄を普段の生活と関連付けて説明することで、子供達は精力善用・自他共栄を身につく方向に近づくのかなと思っています。

司会
絵本を用いて伝えた場合と、絵本なしで伝えた場合のお子さんの変化について教えてください。

河井
子供達は絵本を楽しみにしており、練習が終わった後、保育園児や小学校4年生くらいの子供が「絵本読まないの?」と言ってきてくれます。また、子供から「昨日お手伝いしたよ」という声を聞いたり、保護者から「急に家で自分で靴下を畳み始めた」「洗濯物を自分で畳んで運び始めた」などの報告をいただいています。やはり声だけで説明するより、絵本で説明したほうが、子供には効果的に伝わると実感しています。

3.柔道CMなどで考えを言語化する機会を作る

司会
テレビ番組では、中学生が「Who is柔道」というテーマで柔道に対する思いを書いたり、柔道のCMを作ったりする取り組みが取り上げられていました。このように考えや思いを言葉や映像にする取り組みにはどのような効果があるのでしょうか。「そのような時間があったらもっと練習したほうがいい」という意見もあるかもしれません。

河井
柔道の練習では、技を教わるとか「こういうことをしなさい」というインプットはあると思いますが、自分の意思で自分で考えてアウトプットする機会が少ないと思います。しかし、自分がやりたいことや考えたことを定着させるためには、自分で言語化し、思っていることを外にアウトプットする必要があると考えています。

4. 柔道遊びイベントで新規メンバーを募集

司会
「いろんな人に柔道体験会に来てほしい」と多くのクラブが考えていると思いますが、簡単には人は集まらない。イベントに足を運んでもらうために大事なポイントは何でしょうか?

河井
「柔道体験会」ではなく、「遊び」という要素を前面に出すことで、柔道に対する「怖い」「痛い」といったネガティブなイメージを和らげるよう工夫しています。また、柔道単独でイベントを開催すると、なかなか人が集まりにくいというのが現実です。そこで私たちは、地域の大きなイベントと同じ日に開催するなど、他のイベントと連携するよう工夫しています。

5. 保育園や福祉施設への訪問

司会
河井先生は保育園や放課後等デイサービスに出向いて指導されています。柔道の先生が他の施設に赴いて指導するケースは珍しいと思いますが、この取り組みについて教えてください。

河井
私の柔道普及の取り組みには段階があります。最初の課題は「柔道を知らない」という状態をどう変えるかということです。 柔道遊びのイベントは、ある程度柔道を知っている子たちや、少し興味がある子たちが参加します。全く見たことのないものには参加することは難しいです。そこで「知ってもらう」段階として、イベントをして待つ「ウェルカム型」ではなく、こちらから出向く「アウトリーチ型」のプログラムを実施しています。保育園や放課後等デイサービスでの活動は、この「知ってもらう」段階の取り組みです。これが次の段階である柔道遊びに繋がっていくのです。

また、この活動にはもう一つの重要な意味があります。柔道遊びのイベントや普段の練習の見学に来た子供の中には、道場に入ることを躊躇する子どもがいます。その背景には、「怖さ」や「未知のものへの不安」があると考えています。もっとも、私が直接出向いて指導することで、私の顔を知ってもらい、「道場に行くとこの人がいるんだ」という安心感を持ってもらえます。

司会
訪問して指導されたときの供たちの反応を教えてください。

河井
すごく喜んでくれて、「楽しかった」「また柔道やりたい」と言ってくれています。ただし、そこから一歩先、つまり実際に道場に来てもらうというところまでは難しい状況です。長い目で見て、1回でも2回でも柔道に触れてもらえたらいい、というスタンスで取り組んでいます。 また、放課後等デイサービスについては、子供たちが安心できる場所でやるということが大事だと実感しています。職員の方からも「この場所だからできる」という話を伺っています。したがって、急に場所を道場に変えるのではなく、まずはその場所での活動を大切にしながら、柔道を知ってもらう活動を続けていけたらと思っています。

6. 柔道の可能性

司会
柔道の魅力や可能性についてお聞かせください。

河井
柔道はメディアで取り上げられる競技としての側面のほか、様々な可能性があります。例えば、高齢者の介護予防、発達発育の柔道など、様々なところとつなげることができると思うので、もっと生活の身近なところに入っていくようになったらいいと思っています。 私は「柔道を知ってもらいたい、触れてもらいたい、そして、柔道を生活の一部として自分の生活を潤すものになっていってほしい」という願いを込めて活動をしています。明日も放課後等デイサービスの施設を訪問しますが、できる限り、様々な人から喜んでもらえる、楽しんでもらえる活動を続けていければと思っております。

インタビュー動画

河井先生の取り組みの詳細はこちらのインタビュー動画をご覧ください。

柔道を深く学び、広く伝える方法 -河井大介氏(栃尾柔道倶楽部)

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