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日本を代表する少年柔道の指導者は何を考えているか?朝飛大氏&星野力氏トークセッション

2021年3月17日(水)、NPO法人judo3.0が主催するオンライン上の勉強会&交流会「3.0オンラインカフェ」にて、星野力先生がインタビューアーとなり、朝飛大先生とのトークセッション「少年柔道を語る」が行われました。

朝飛大先生は神奈川県横浜市の朝飛道場の指導者。朝飛道場は小学生の全国大会で何度も優勝しており、羽賀龍之介選手の出身道場でもあり、生徒が150名以上いるという柔道クラブです。

インタビューアーの星野力先生は新潟県新潟市の白根柔道連盟鳳雛塾の指導者。白根柔道連盟鳳雛塾は新潟を代表して何度も全国大会で朝飛道場と対戦しており、そのような関わりの中で、星野先生は指導者としての朝飛先生に惹かれていったとのことでした。

このトークセッションには全国から50名強が参加し、星野先生の質問に対して朝飛先生が答えるという流れで進んでいきました。以下、朝飛先生と星野先生のトークセッションから印象深かったことを筆者なりに整理してみました。あくまで筆者なりに理解した点なので、講師の話そのものではない点をご理解ください。

朝飛先生のお話

指導者として覚醒:「否定」から「肯定」の指導へ

自分自身が選手として厳しい指導を受け、たくさん稽古をしてきた。柔道の指導とはそういうものだと思っていたので、当初は生徒に「やらせよう」という気持ちで指導し、叱ってばかりいた。しかしうまくいかなかった。あるとき、問題児だった生徒が玄関で靴を並べていた。そこで何気なく褒めたら、翌日も靴を並べるようになった。「靴を並べなさい」と言ってもやらない生徒が「褒める」をしたら自分から進んで靴を並べる。そこで気づいた。生徒は認めてほしい。その子がやろうとしていることを認める、ほめてあげると、生徒は自ら主体的に動き出す。

これまでは「やらせよう」という気持ちがあり、「~しなさい」「なんでやらないのか」という「否定」の指導だった。しかし「すごい」「よくできた」という「肯定」の指導に変えた。そうしたら生徒がやる気を出して、自分から練習を求めるようになった。生徒は大会でこれまで以上に勝つようになり、全国大会で優勝できるようになった。また、道場の雰囲気が明るくなり、入塾する生徒が増えた。

「肯定」の指導のポイント①:生徒の成長を見逃さない

すぐにうまくできる生徒とそうでない生徒がいる。大事なポイントは本人ができるようになった瞬間を見逃さないことである。特に寝技は何度も練習することで必ずうまくなる。本人が技ができるようになったとき、生徒を集めてみんなの前で模範例として本人の技を披露させ、説明させる。そして「この技で分からないことがあったら〇〇君に聞くように」という。そうすると、本人は、先生からも周りからも認められて、自分ができるようになったんだ、と自信がつき、この技をどんどん使っていこうという積極性が出てくる。

ある尊敬する指導者から「5回でできるようになる子と20回でできるようになる子、どちらがいいか?」と聞かれた。「5回でできるようになった方がいいのでは」と思ったが、その指導者が言うには「5回でできるようになる子は、試合で技がかからないとき、すぐにあきらめてしまいがちである。しかし20回でできるようになった子は、技がかからなくても「まだいけるんではないか」と思ってかけ続けて、技がかかるようになっていく」という。「なるほど」と思った。生徒にこの話をしている。すぐにうまくならないことは悪いことではない。

「肯定」の指導のポイント②:生徒にかける「言葉」の選択

最も注意していることは、生徒の心をつぶすような言葉をかけていないか、生徒の可能性を否定するような言葉をかけてないか、である。失敗したことはいろいろある。

①団体戦の大会で、ある生徒が守りに入って指導を取られて負けたとき、「なぜ攻めなかったのか?」と叱ってしまったことがある。しかし、その日の夜、振り返って考えると、生徒はチームが勝つためにあえて守りに徹していた。その生徒がやろうとしていたことを認めず、また指導者として生徒がその試合でどのような戦い方をしたらいいか事前に準備もしていなかったのにただ否定してしまった。その晩は眠れなかった。

②寝技の練習をしているとき、教えた形とは異なる形で練習している生徒がいた。「それはちがうよ」と言ったら、生徒から「これは〇〇すると〇〇になるんじゃないですか」と説明を受け、それは見事な新しい技だった。

子供のほうが1枚も2枚も上手である。自分が子供の可能性をつぶしていないか、出来事を様々な視点で見ることができるように気を付けている。

「肯定」の指導のポイント③:技に入るまでの動きと技の命名

技の習得だけでなく、技に入る前までの動きが大事。有名選手が一本をとった技について、その技に入る前にどのような動きをしていたかを見直して、その事前の動きを生徒に解説して、その事前の動きから技に至るまでの一連の動きをまねる。なぜその選手は事前にそのような動きをしたか、意味があるはずであり、正解かどうかは分からないが、自分なりに解説をする。

そして、その有名選手の一連の動きにその選手の名前を付ける。生徒がその一連の動きができるようになったら、「「〇〇(有名選手の名前)」ができるようになったな。本物の〇〇みたいだ」とほめる。生徒は自分が有名選手に近づいた気持ちになり、自信がつく。

同じく、生徒のオリジナルの技に生徒の名前を付ける。生徒が自分の技とその技に入るまでの動きを自分で作ったら、その技に生徒の名前をつける。生徒は自分の名前がついた技を一生懸命練習するし、他の生徒は自分の名前の付いた技を編み出そうとして、一生懸命研究を始める。

このほか、動きに名前を付けることが大事。とくに親しみやすい名称をつけると生徒になじんでいく。例えば、寝技でよく使うある動きに「こんにちは」と名付けたが、生徒は稽古のときだけでなく、道場外で遊んでいるときも「こんにちは」といってその動きをやったりする。

「肯定」の指導のポイント④:指導者の心構え・考え方

  • 「肯定」の指導をするとき大事なことは自分が楽しむこと。自分が楽しくなかったら生徒も楽しくない。逆に自分が楽しかったら生徒も楽しくなる。生徒に対して「俺より楽しんでみろ!俺は絶対に負けないから」と言っている。
  • 指導者が率先することが大事である。例えば、「最近の子供は挨拶しない」というが、自分から子供に挨拶したら、数日後には子供から挨拶するようになってくる。
  • 生徒が柔道の稽古に夢中になること、楽しむことを一番に大事にしている。練習が終わるとき、生徒から「え~、もう終わるの~」という声が出たら成功である。
  • 例えば、やる気を見られない、など、指導が難しい生徒に出会ったとき、指導者はどう考えたらいいか。そういう生徒こそが指導者を育ててくれる。自分はそういう子に出会ったら「よし、着た!」と思う。
  • 何でも1番を目指す。競技でも一番を目指すし、人間形成でも一番を目指すし、勉強でも一番を目指す。普段の稽古のほか、毎月、勉強の時間や街の清掃などに取り組んでいる。

柔道人口の減少を止める方法とは?柔道の魅力とは?

嘉納治五郎先生の遺訓にあるように柔道は柔道家に対して道徳性を求める。それが柔道の素晴らしいところである。柔道の指導者が自らの内面を高めようとしているとき、自分自身が、そして周囲の環境が健康的で明るい感じになる。そうしたら、黙っていても人が寄ってくるようになる。

参加者の感想

参加者のアンケートから

今まで子どもたちに実際に朝飛先生が指導されている場面を見たことがあるのですが、子どもたちのやる気を引き出す素晴らしいものでした。今回のお話を聞いて朝飛先生がどんなことを考えながら指導にあたっているかがわかりとても参考になりました。「チャレンジしたことを褒める」「居場所をつくる」「対応の難しい生徒に出会えたら自分の指導の幅を広げるチャンスだと思う」。道場のみでは無く学校現場でも実践しなくてはならないとてもインクルーシブな考え方だと思いました。星野先生が発達と柔道指導のワークショップで学んだこと(「褒める」など)が全部朝飛道場にあるという言葉も納得してしまいました。誰も取り残さない優しい土壌から強さが育まれているということを意識させていただきました。

技に名前をつけるというお話では、幼い子がおもちゃのぬいぐるみに名前を付けたりすることと似ている感じがしました。名前を付けることで、技が自分の分身になったり、技がお友だちなったり、技が兄弟姉妹になったりすると思いました。そうすると、技に自然と愛着が出てきて、技を大切に思って取り組める効果があるのでは思いました。

技に名前をつけるというお話では、幼い子がおもちゃのぬいぐるみに名前を付けたりすることと似ている感じがしました。名前を付けることで、技が自分の分身になったり、技がお友だちなったり、技が兄弟姉妹になったりすると思いました。そうすると、技に自然と愛着が出てきて、技を大切に思って取り組める効果があるのでは思いました。

筆者の感想

一人ひとりの生徒を肯定する。

その1点においてすべてを圧倒している、という印象を受けたお話でした。

そして、生徒を肯定するには、生徒の日々の小さな成長、わずかに見せる可能性に気づかないといけない、生徒が変なところに行かないよう事前にその道をふさいでおかないといけない(変なところに行った生徒を事後的に叱るのではなく)、当然ながら生徒の成長を促さないといけない、しかも生徒の個性は多様なので、一通りの成長ではなく、その個性にあった多様な成長の道を用意しないといけない、などなど、やるべきことが山のようにあることを気づかせていただきました。

今回のお話を聞く前に、もし「強いチームを作る方法とは?」と聞かれたら、「才能のある選手が集めて厳しいトレーニングをすること」と答えていたかもしれません。しかし、今回のお話を伺って、「柔道の強弱を問わず、生徒の資質を問わず、一人ひとりの生徒を圧倒的に肯定すること」だと思いました。

「叱る、怒鳴るなどの厳しい指導、「否定」の指導するからこそ強い選手が育つ」「褒める!?そんな甘い指導では勝てない」、このような観念がまだまだ一般的に流布しているなか、日本一の少年柔道クラブの指導が一人ひとりの生徒を圧倒的に「肯定」する指導だった、という事実は驚きではないでしょうか。

これは暗いニュースの多い柔道界に光明を差しているかのような印象を受けました。もし各地の柔道クラブで一人ひとりの子供たちが圧倒的に「肯定」されるようになったら、柔道を始める生徒がうなぎのぼりになる!、そんな未来が垣間見えたからです。(文責:酒井重義)

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