なぜ柔道の体験会に156名もの人々が参加したか?はじめての柔道ばんぱくin大阪城レポート
NPO法人judo3.0は、2024年11月16日(土)、大阪市立修道館にて、柔道の体験会「はじめての柔道ばんぱくin大阪城」を開催し、156名の皆様に参加いただきました。なかなか足を運んでいただけない柔道の体験会に、多くの人々に足を運んでもらえるようにしたらどうしたらいいのかを試行錯誤し、当日は44名の有志のスタッフが協力して実施したイベントになります。以下、柔道の普及に取り組む皆様のご参考になったら幸いです。
目次
- イベントのレポート
課題:「一般的な柔道の体験会では人はあまり集まらない」
参加者の内訳:7割が家族連れ・6割がはじめて柔道を体験
当日の内容:9つのプログラムを体験
参加者の感想:96%が「とてもよかった」、37%が「近所の柔道クラブの体験に行く」と回答 - イベントの解説
「熱き志を持った仲間とともに」浅見友記夫氏(加美中学校)
「柔道のすばらしさを伝えたい」田邊智彦(明武館田邊道場) - イベントの概要・協賛
当日の様子(動画)
1.イベントレポート
課題:「一般的な柔道の体験会では人はあまり集まらない」
本イベントは、2024年2月、近畿、中部、四国地区の有志が集まり、
- 「柔道は敷居が高くて気軽に関わることが難しい。この敷居を下げて、これまで柔道と接点がなかった人々が柔道に触れる機会を作ることができないだろうか」
- 「一般的な柔道の体験会では人はあまり集まらない。広く人々に柔道の魅力を伝える方法がないだろうか」
という課題について話し合ったことから生まれました。
この話し合いの中で、以下のような方向が見えてきました。
- 柔道に関心があっても、柔道クラブに体験に行こうとはなかなかならない。多くの場合、柔道クラブにいって柔道を体験することは、体験後に入会することが期待されるので、入会して継続して稽古を続ける意向がない限り、柔道クラブに行って柔道を体験する、ということにつながらない。したがって、柔道に関心があるが、継続して稽古を続けようとはその時点で思っていない人々が気軽に柔道を体験する機会が滅多にない。
- 世の中に「休日のお出かけイベント」はたくさんある。「土日に有意義な体験をしたい」「土日に子供を連れて外出して親子で楽しい時間を過ごしたい」「土日に子供の学びになる体験をさせたい」と思っている人々がたくさんいる。しかし、この「休日のお出かけイベント」の中に、柔道のイベントは見当たらない。この点に焦点を合わせたイベントを作ることができたら、多くの人々に柔道を体験していただく機会をつくることができるのではないか。
- お出かけイベントとして参加者に豊かな体験を提供するためにはどうしたらいいか。「柔道を体験できます」では漠然として何を体験できるか分かりにくい。「柔道の〇〇を体験できます」という魅力の提示が必要である。また、柔道の魅力を分解して何が体験できるかを示すことは、柔道には多様な魅力があることを発信する機会にもなる。
上記の方針にもとづき、柔道の魅力を分解して、①柔道衣を着る、②受身、③立技、④寝技、⑤畳の上でトレーニングができる、⑥インクルーシブな側面がある(ID柔道)、⑦道場は安全に運動遊びができ、子供の運動環境としても優れている、⑧柔道の技を見る、⑨嘉納治五郎先生が理想を掲げている、をピックアップしました。
そして、ピックアップした一つ一つの体験に魅力的なフレーズをつけて、以下のように9つの体験ができる「お出かけイベント」としてイベントを作り、情報発信しました。
①柔道衣を着てみる!凛とした美しさ
②転んでもケガをしない技術を習う
③人を投げる!一生に一度は体験を
④最強の格闘術!寝技をやってみる
⑤どんなスポーツにも効果がある体幹トレーニング
⑥「ID柔道」を知ってますか?
⑦最高の遊び場 畳の上で運動あそび
⑧武道の美しさ 柔道の形を鑑賞
⑨柔道を作った人は日本体育の父だった
参加者の内訳:7割が家族で参加・6割がはじめて柔道を体験
156名の参加者のうち、幼児・小学生が52名、中高生・大学生が3名、保護者51名、大人50名です。7割が幼児・小学生を連れたご家族、3割が大人となります。大人の中では海外から日本に留学している学生の皆様が多数参加くださいました。
アンケートによると、約6割の参加者が柔道を初めて体験し、約3割は家族に柔道関係者がいる、約1割は現在柔道をしている皆様でした。
当日の内容:9つのプログラムを体験
当日は、プロジェクトリーダーの浅見友記夫氏(加美中学校)が司会を務め、副リーダーの田邊智彦氏(明武館田邊道場)の開会のあいさつ後、加美中学校柔道部の中学生の皆様による柔道の演武が行われました。
寸劇を交えて受身や投技を披露し、この演武を見て保護者に「柔道を始めたい」と言ったお子様もいらっしゃいました。
次に、浦井重信氏(文武両道の放課後等デイサービスみらいキッズ塾)、楠山光一氏(光真道場)による畳の上での運動遊びを実施。
大いに盛り上がり、参加者の中にはこのプログラムを自分のクラスに取り入れたいとお話された大人の方もいらっしゃいました。
その後、参加者は6つのグループに分かれて、15分づつ6つの体験コーナー(受身、立技、寝技、体幹トレーニング、ID柔道、嘉納治五郎先生のお話)を巡りました。さらに、柔道衣を着てみたい方に向けて柔道着を試着できるコーナーを設けており、希望者は柔道着を着て写真を撮っていました。また記念のキーホルダーを作ることができる機会を設け(制作:いけだ刺繍)、希望者はキーホルダーを作っていました。
転んでもケガをしない技術を習う
交通事故よりも転倒で亡くなる方が多いってご存じですか?柔道の受身を体験!
担当:田邊智彦氏(大阪府池田市 明武館田邊道場)
人を投げる!一生に一度は体験を
簡単な技を習って経験者を投げてみます。映える動画が撮れます!
担当:浅見友記夫氏(大阪市立加美中学校)
最強の格闘術!寝技をやってみる
どんな喧嘩自慢も経験者に勝てないと言われる寝技を体験してみよう!
担当:表原 宏和氏(総合格闘技道場パラエストラ東大阪)
転んでもケガをしない技術を習う
交通事故よりも転倒で亡くなる方が多いってご存じですか?柔道の受身を体験!
担当:田邊智彦氏(大阪府池田市 明武館田邊道場)
「ID柔道」を知ってますか?
それぞれに合わせた柔道があります。知的障がい者柔道を体験してみよう!
担当:楠山光一氏(和歌山県由良町 光真道場)
柔道を作った人は日本体育の父だった
東京大学を卒業して柔道を作りオリンピックを広めた嘉納治五郎の足跡をたどります。
担当:酒井重義氏(NPO法人judo3.0)
柔道衣を着てみる!凛とした美しさ
日本の伝統的な衣装、柔道衣を着てみませんか?映える写真が撮れます!
担当:大山隆弘氏(大川町少年柔道クラブ 香川県さぬき市)
記念キーホルダー
協力:つばめ刺しゅう(大阪府池田市)
各コーナーそれぞれ盛り上がり、2時間があっという間にすぎ、最後にアンケートにご記入いただき(任意・無記名)、終了となりました。
参加者の感想:96%が「とてもよかった」、37%が「近所の柔道クラブの体験に行く」と回答
イベント後、任意で無記名のアンケートに回答いただき、感想を伺ったところ、96%の参加者が「とてもよかった」と回答、以下のような感想をいただきました。
- 受身や投げ技を教えてもらってすごく楽しかったです。
- 家族全員が楽しめてよかった
- 周りを見るとみんな笑っていました。柔道を通じたこのような交流、次回もぜひ参加したいと思います。
- たくさんのイベントブースがあり、柔道の歴史やID柔道など、知らなかったことを学べ、とても勉強になりました。小学生にとっても集中力が持つようにうまく構成されており、親子で楽しく参加することができました。
さらに「柔道を始めてみようと思ったか」という点を伺ったところ、37%の参加者が「近所の道場を探して体験に行ってみようと思った」、56%の参加者が「いつか機会があったら柔道を初めて見たい」と回答、本イベントが柔道の魅力を知っていただくだけでなく、実際に柔道クラブへの入会を促す効果があることも示されました。
最後に
本イベントは「未経験者向けの柔道の体験会にはなかなか人が集まらない」「どうしたら柔道の魅力をより多くの人々に知っていただけるだろうか」という課題に対して、運営メンバーが何度も話し合いを行い、試行錯誤しながら企画を立案、当日は44名のスタッフと共に実施したイベントです。ご参加くださった皆様が柔道を通じて笑顔で過ごされている様子を見てほっとするとともに大変うれしく思いました。この取り組みが柔道普及に取り組む有志の皆様の参考になったら幸いです。
2.イベントの解説
「熱き志を持った仲間とともに」浅見友記夫氏(加美中学校柔道部)
私が今回のプロジェクトを皆で推進しようと思った理由は大きく2つあった。1つはいつも勉強になっているjudo.3.0の10年という節目に対し何か貢献しようと思ったこと、そしてもう1つは、現在囁かれている日本の柔道人口の低下に対して、一石を投じることがあった。そして、その静かなる目標を持つ中で3月11日に初めてのzoom会議が行われた。その会議を進行する中で、大阪での開催が決まり、酒井先生を中心としたjudo3.0に参加する関西と四国の先生を中心に企画は練られていった。参加する先生の仕事は様々で、最初は月に1度のペースであったか月曜の20時から会議を進めた。場所の確保、内容の精選、タイムテーブル、資金、広告協賛、そしてターゲット・・・
会議の内容は多岐にわたった。それぞれの先生方の頭の中に、イメージや内容はしっかりとあったものの、それを皆が共有すること、また具現化していくことの難しさに頭を悩ませていた。今だからこそ言えるが、会議の日は心が重く空中分解するのではないかと危惧することさえあった。その詳しい理由は後述する。またこのイベントの名前を決めることにも苦慮した。堅苦しくない、しかし柔道のイメージや大阪のイメージを消さないもの。皆で話し合いきまったのが「はじめての柔道ばんぱくin大阪」というものだった。ターゲットも初心者を中心に、しかも他のスポーツイベントとタイアップすることもない、今までに例を見ない柔道だけの、しかし柔道衣を着ないでも楽しめる家族のお出かけイベントとして考えていくことになった。この時は決まったものの先の見えない不安でいっぱいであった。
日を追うごとに少しずつ会議の間隔は短くなっていき、最終的には2週間に1回までになっていった。その間も、イベントの統括、渉外担当、会計担当など様々な役割分担が決められ、それぞれがその持ち場を中心に知恵を出し合い、今回のイベントを大きなものにしてっていった。しかし肝心のイベント申し込みが伸びてこない。メンバーの心に、そのことが暗い影を落としていった。それぞれが成功を夢見るが、前例がないこと、運営の資金、そして当日の参加者数など不安の中で進める会議、中々一つにまとまらないことも皆の心を苦しめていった。
しかし、熱き志を持ってここに臨んだ先生方は折れずに、じっくりと、そして冷静に会議に向きあった。経験者から考える視点、初心者としての目線、保護者として自分が参加者としての視点など、出来うるシュミレーションを幾度となく考えzoom内で議論した。多くの先生や企業の支援、大阪府教育委員会、大阪府柔道連盟、大阪府道場連盟などの後援も受けることができ、多くの人の支えで、その日を迎えた。一番懸念されていた参加者数であったが、少しずつ申込者数は増えていき、幼い親子を中心にトータル160人近い参加者が修道館に足を運んでくれた。その中で特に多くの留学生を参加させてくれたプロジェクトメンバーの津田先生の関係であるエール学園の存在は、メンバーの心を励ましてくれた。
そして当日は、様々なブースを出し、先生方一人ひとりの力が存分に発揮されたものになった。まさしくそれは、会議の最初に頭にあったものをそれぞれが具現化したように感じた。会議が進まなくても、一人ひとりの頭の中には、ここまでしっかりとビジョンがあったのかと本当に尊敬と憧れの気持ちを抱かせてもらった。午後からの開催であったが、子どもたちや大人も楽しめる柔道のイベントとして一定の成果が上げられたよう思えるイベントであった。また柔道のイベントの中に、ID柔道や、柔術の寝技ブースなど、様々な柔道を楽しめるイベントを企画できたことが心から嬉しく、また自分自身も勉強になった。
今回のイベントを通して、同じ志を持った先生方と心深く通じ合えたこと、柔道を深く探求できたこと、また多くの人に柔道の魅力を伝えることが出来たことは本当に自分の財産になった。
最後になるが、このイベントを企画するにあたり、一緒になって頑張ることができた先生方、当日応援に駆けつけてくれた先生方、広告協賛してくれた各企業や代表の方、後援してくれた組織、宣伝してくれた方々、本当に心より感謝申し上げます。
浅見友記夫 プロジェクトリーダー
「柔道のすばらしさを伝えたい」田邊智彦(明武館田邊道場)
柔道の素晴らしさについて、もっと多くの方に知っていただきたい – そんな思いから、今回のイベント運営に参加させていただきました。これまでの柔道イベントは、どうしても柔道を習っているお子さんたちが中心でした。でも、柔道を全く知らない方にこそ、その魅力を感じてほしい。そう考えながらも、どうやって柔道を知らない方々に足を運んでいただけるか、悩みました。
私たちが今回特に大切にしたかったのは、勝ち負けだけではない、柔道の多様な魅力です。子どもたちの健やかな成長を支える体づくりとしての柔道、そして日常生活でも活かせる学びの場としての柔道。さらに、創始者・嘉納治五郎先生が説いた「精力善用・自他共栄」という教育的な側面を、できるだけ自然な形で伝えていきたいと考えました。
何より嬉しかったのは、参加してくださった皆様から「柔道って楽しい!」という声をたくさんいただけたことです。この経験をきっかけに、地元の道場に興味を持ってくださる方が現れたことも大きな喜びでした。これからも、柔道とあまり接点がない人々に向けて、柔道の魅力を伝える場が少しずつ増えていってくれたらと願っております。
最後になりましたが、イベントの開催のため各方面に協力を依頼させていただき、私たちの思いに共感してくださった団体・個人の皆様の協賛、後援、協力のおかげで、このイベントを形にすることができました。心より感謝申し上げます。ありがとうございました。
田邊智彦 プロジェクト副リーダー
3.イベントの概要
概要
名称:はじめての柔道ばんぱくin大阪城
日時:2024/11/16(土)13:30-16:30
場所:大阪市立修道館(大阪城公園内)
主催:NPO法人judo3.0
協力:加美中学柔道部 明武館田邊道場 光真道場 大川町少年柔道クラブ 文武両道の放課後等デイサービスみらいキッズ塾 同志社WRJC
後援:大阪府教育委員会 大阪府柔道連盟 大阪府柔道道場連盟 大阪府柔道整復師会
協賛:学校法人エール学園 大阪府柔道連盟 大阪府道場柔道連盟 株式会社明武館 株式会社リベルテ 株式会社ロゴスコーポレーション 大阪府柔道整復師会 剛斗館 株式会社笑光 同志社香里高校柔道部OB会 株式会社前田畳製作所 TOSHI行政書士事務所 上田吉夫 堺市立月州中学校柔道部 宮野接骨院 合同会社CARE POWER 株式会社レークランド
プロジェクトメンバー:
浅見友記夫(大阪市立加美中学校)※リーダー
田邊智彦(明武館田邊道場)※副リーダー
浦井重信(みらいキッズ塾)
楠山光一(光真道場)
大山隆弘(大川町少年柔道クラブ)
津田明宏(同志社WRJC)
金正嘉彦
柳谷弘子(光真道場)
酒井重義(NPO法人judo3.0)
ほか当日は多数の皆様にご協力いただきました。