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judo3.0はこれから何をするのか?10年目を迎えて(1)

NPO法人judo3.0は、活動を始めて今年(2024年)が10年目となります。そこで改めて「judo3.0とは何か?これから何をするのか?」を考察する取組みを始めました。第1回は、2024年3月29日、judo3.0代表の酒井に対する質問が行われ、20名強の参加者がそれを受けて質疑応答をする、という形で行われました。以下は、そのインタビューの要約となります。

目次

1.インタビュー
-国際柔道交流
-発達障害
-学校
-judo3.0の捉え方

2.ご意見・ご質問の募集

インタビューアー

インタビューアーは栗田愛弓氏(大学院生)。栗田氏は、NPO法人judo3.0が2021年6月20日に開催した、中高生に向けて14の大学柔道部の魅力をオンライン上で伝えるイベント「大学柔道部を旅しよう!”Univ.Judo Day1st” 中高生に贈る14の大学柔道部の魅力」の司会も務めています。

大学柔道部を旅しよう!"Univ.Judo Day1st" 中高生に贈る14の大学柔道部の魅力/14 Japanese university Judo clubs Introduction.

第1回 酒井重義(judo3.0)インタビュー(インタビューアー栗田愛弓氏)

国際柔道交流

栗田:judo3.0の活動の項目を教えてください。

酒井:活動がいろいろあるので整理するのが難しいのですが、とりあえず三つあります。一つ目は対話の場づくりとそこから生まれたプロジェクトの実施、二つ目は国際柔道交流の支援、三つ目は発達障害に関する柔道環境の改善です。

栗田:当初からその三つだったのでしょうか。

酒井:いいえ。2015年1月に活動を始めたときは子供の国際柔道交流だけです。

栗田:次第に活動が広がっていったのですね。それではなぜ子供の国際柔道交流の支援を始めたのでしょうか。

酒井:私は漠然と世の中を良くすることに関わりたいと思い、当初は法律を勉強して弁護士として働き始めました。しかし、世の中が良くなる仕組みは考えたとき、運動が持っている可能性がもっと発揮できる環境を作っていくことが必要であると考えるようになりました。

栗田:運動の可能性に気付いたきっかけは何ですか。

酒井:司法試験になかなか受からずにいたとき、運動することで気持ちが楽になったり、集中して勉強できるようになったりしたことがきっかけです。その後、運動にはうつ病を予防や改善したり、意欲や集中力を向上させたりする効果などがあることが研究で示されていることを知り、私が経験したことは自分だけでなく、誰もが経験できるものとあることを知りました。しかし、このような運動の効果は知られているようで知られておらず、活用されていません。友達が困っているとき、「飲みに行こう」と誘うことはあっても、「一緒に運動しよう」と誘うことはあまりないですよね。私もこれまでサッカーや野球、柔道などをしてきましたが、精神的に苦しいときに運動したら楽になるということを知りませんでした。

栗田:運動の可能性に気づいてから、なぜ子供の国際柔道交流が必要と考えるようになったのでしょうか。

酒井:「競う」という既存のスポーツの枠組みだけでは限界があると考え、もっと別の仕組みがないかと模索するようになりました。このとき、縁もゆかりもない福岡に転勤して、近所の道場に行って柔道をしたときに友人ができたことを思い出し、運動の「つながる」という側面に目を向けるようになりました。そこで、アメリカに3か月程度行って道場を巡ってみました。英語がうまく話せるわけでもなかったのですが、稽古を共にすることを通じて現地の人々と親しくなることができ、言語や文化の違いを超えて、人とつながることができることを実感しました。このような経験は、これからのグローバルな社会を生きる子供の教育としてとても有効な教育機会です。これからの教育として求められていることから、子供の国際柔道交流の支援を始めました。

栗田:なぜ対象が子供だったのでしょうか?大人は考えなかったのですか。

酒井:当時、大人については考えていませんでした。子供達に良い教育システムを残したいと思っていたからだと思います。大人と子供では枠組みが異なる部分があります。日本政府は観光立国を目指して、インバウンド、海外旅行客を増やそうとして武道ツーリズムを進めています。大人の国際柔道交流は「観光・ツーリズム」、子供の国際柔道交流は「教育」という印象があります。

栗田:先ほど既存のスポーツの枠組みでは限界があるとお話されましたが、既存の枠組みで国際柔道交流が難しい理由を教えてください。

酒井:競技スポーツの中核は大会運営です。地区大会、県大会、全国大会、世界大会を運営することが必要であり、これに応じて地域別に組織や人間関係が作られています。全国大会で優勝したら、世界大会に出場するという形で海外に行くチャンスも生まれますが、それ以外でチャンスを得ることは難しい。もちろん国際柔道交流を支援している団体はありますが、それがメインではなく、あくまで余力で行っている状態です。国際柔道交流の機会を広げていくためにはこれを専門に支援する組織が必要だと考えました。

栗田:それではどのようにしたら子供の国際柔道交流が促進されるのでしょうか。

酒井:例えば、ある日本の生徒が「一週間フランスに行って柔道をしたい」と指導者に言ったとき、指導者はどうしたらいいでしょうか。もしその指導者がフランスに柔道の先生の友人がいたら、その場で電話をして「うちの生徒が行きたいと話しているけど、大丈夫?」と話してそのチャンスを作ることができます。直接の知り合いがいないとしても、フランスの柔道の先生と親しい日本の友人がいたら、その友人に頼むことができます。国際柔道交流に関心がある国内外の指導者同士の国際的なネットワークが充実したら、子供の国際柔道交流が進むと考えています。

栗田:これからの教育として国際柔道交流が求められているとのことですが、改めて、国際柔道交流に子供の教育としてどのような可能性があるのでしょうか。

酒井:昔から、「子供」がいわゆる「大人」になることができるか、というのはそれぞれの社会にとって大きな課題でした。ここでいう「大人」というのは精神的に成熟した社会の一員として社会に適応している状態を指しています。
柔道の先生も「立派な大人になって幸せになってほしい」という願いを込めて柔道を指導していると思います。それでは「子供」はどのようにして「大人」になるのでしょうか。

近代になってから全ての子供が学校に行くようになりましたが、それ以前の社会ではそうではありませんでした。私はそれぞれの社会が「通過儀礼」という、子供が大人になるためのイベントを用意していたことにこれからの教育のヒントを見出しています。通過儀礼の内容は社会によって異なりますが、共通する特徴は、今いる場所を離れて、異なる世界に行き、何らかの体験をして戻ってくることです。いわば、地域の大人達が子供に「冒険」を提供することで、成熟した大人になることをサポートしていたのです。

子供が異国に行って柔道をすることはこの「冒険」です。もし、世界中の大人と協力して、柔道をする子供達に、異国で柔道をするという「冒険」を提供できるようになったら、柔道は、子供が大人になることを最も多くサポートする組織、新しい時代の新しい学校として進化すると考えています。

栗田:これまでどのようにして国際柔道交流をサポートしてきたのですか。

酒井:最初は、日本の子供向けに海外に行って柔道をしようという企画を作って募集して実施していました。2015年にハワイ、2016年にインドネシア、タイで実施しています。次に、海外の子供を日本で受け入れる活動を始めました。海外の子供達と交流する日本の子供が増えれば増えるほど、「友人の国に行って柔道をしてたい」と思う子供が増えるからです。そこで、海外の子供の受け入れに関心がある柔道クラブを探して20都道府県を訪問して、2017年3月、島根から東京まで5都道府県15の道場で海外の柔道家を受け入れる企画を実施しました。

この取り組みはうまくいきましたが、参加者を一般募集する難しさを実感しました。というのも、自分たちの道場で受け入れるのではなく、各地の有志の道場で受け入れていただくので、受け入れたクラブでいい交流ができるように、迷惑をかけないようにしないといけません。公募したとき様々な国から連絡をいただいたのですが、ご本人が本当に大丈夫な人なのか判断することが難しかった。そこで、以降は「日本に生徒を連れて行きたいが、どこに行ったらいいか分からない」という海外の柔道の先生のサポートすることで国際柔道交流の進めてきました。柔道の先生であれば基本的に信頼できますし、信頼できる柔道の先生が連れてくる子供もまた信頼できるからです。

2018年はノルウェー、ポーランドから、2019年はチェコ、ポルトガル、中国、アメリカ、スコットランド、ドイツ、ポーランド、ベルギーなどからチームを日本で受け入れ、この取り組みを加速させるため、日本で子供の国際柔道交流ができる地域を一覧で示した「日本柔道キャンプスポット」を作ったところで、コロナ禍になって国際柔道交流はストップしました。

栗田:今はどうなったのでしょうか。

酒井:少しづつという感じで、本格的にはまだ再開していません。昨年(2013年)5月に新型コロナウイルスが5類に移行して日常生活が戻り、夏には台湾の高校生が日本に来ることをサポートしたり、日本の子供達が韓国に行ったりしていますが、昨年の時点では、国内の道場で外国の方を積極的に受け入れていこうという雰囲気を作ることは難しいと感じていました。今はもう気にしなくなったと思うし、コロナ禍のオンライン上の国際セミナー等を通じて海外の指導者とのネットワークも広がったので、どのように再開するかを検討しています。

発達障害

栗田:judo3.0の活動は、①対話の場づくりとそこから生まれるプロジェクトの実施、②国際柔道交流、③発達障害と柔道、という3点でした。残りの活動について教えてください。

酒井:対話の場づくりについては、2016年9月からフォーラムを年2回開催、コロナ禍になった2020年からは週1回オンライン上の勉強会のほかシニア柔道の研究会、部活の地域移行の勉強会など様々なオンライン上のイベントを開催しています。このような対話の場から様々なプロジェクトが生まれており、例えば、2023年には、各地のろう学校で柔道体験会を開催してデフ柔道の普及を図ったり、モンゴルに畳を贈ったり、幼児の指導法ワークショップを開催したり、高齢者の柔道指導を学ぶイベントが開催されたりしました。

栗田:発達障害に取り組まれているのは何故でしょうか。

酒井:国内に80万人以上の発達が気になる小中学生がいて、子供の発達に運動が必要であるにもかかわらず、彼ら彼女らに運動が十分に届いていないという大きな社会問題があります。柔道は実業団なども含めて国内に7000以上のコミュニティがあります。各地の柔道コミュニティがインクルーシブになったら、たくさんの子供達が柔道を通じて発達できるようになるからです。

栗田:具体的にはどのような活動をしてきたのですか。

酒井:2016年の第1回フォーラムのときから発達障害を取り上げ、このテーマに関心がある人々、特に専門家とのネットワークを作ってきました。そして、専門家と協議を始め、発達障害のある子供への柔道指導法のノウハウを整理して、2018年に指導者向けのワークショップを行いました。これが好評であったことから全国の指導者にこの知見を提供できたらと思い、2019年から10都道府県でワークショップを実施、さらに多くの地域で、と思っていたときにコロナ禍でストップしました。

次に書籍を通じてノウハウを提供できたらと思い、2020年に書籍「発達が気になる子が輝く柔道&スポーツの指導法」、2023年に「誰一人取り残さない柔道 柔道人口が増える3つの視点」を制作しました。コロナ禍が落ち着いた2022年から、小規模で短時間のワークショップを行ったり、世界自閉症啓発デーに関して有志の柔道クラブと啓発イベントを実施したりしています。また、全国にこの知見を広げるためには全日本柔道連盟様に取り組んでいただくことが必要だと考え、2023年秋に賛同者を募って、発達障害に配慮した柔道環境づくりに取り組むよう要望書を提出しました。

学校

栗田:judo3.0で学校を作りたいという話もあったと思いますが、それはどのような学校なのでしょうか。

酒井:まだ具体的な取り組みを始めたわけではありませんが、こういう学校があったら世界的に柔道教育がバージョンアップする、という理想の形があります。

今、様々なところで新しい教育を作ろうという取り組みが行われています。同じ年齢の同じ地域の子供が一か所に集まって教科書を通じて同じ内容を同じスピードで学ぶ、という現在の教育のカタチはネットやAIがない時代に作られたものです。ネットやAIがあることを前提にゼロから学校を設計したら違うカタチになるのですが、大きな示唆を受けるのは、2014年に開校した米国のミネルバ大学です。様々な国から集まった学生が世界7都市に半年程度づつ寮生活をしながら現地でインターシップなどを行い、オンラインで授業を受け、かつ学費が通常のアメリカの私立大学より安いという学校です。

オンラインで学べるものはすべてオンラインで学べるようにしたら何が起きるのか。「学校に行かずに家で授業を受けることができて便利」という話ではないんです。場所から解放されたからこそ、インドのNGOで働いてみたり、アメリカのベンチャー企業で働いてみたり、ドイツの市役所で街づくりをしてみたり、教科書では学ぶことができない体験を伴った学びができるようになる。学校という建物が不要になるので学費が安くなる。

大学生はミネルバ大学のように職業体験を中核として様々な現場を体験することがいいと思いますが、中高生は何を軸にしたらいいでしょうか。私は、スポーツという非言語コミュニケーションを使って様々な国の人々と交流していく体育が中核になると考えています。子供達が世界各地の柔道クラブを巡り、現地の様々な人々柔道を通じて交流し、授業はオンラインで受講できるような学校ができたら、柔道をする子供の未来も、柔道の未来も広がると思っています。

judo3.0の捉え方

栗田:国際柔道交流であったり、勉強会であったり、発達障害の取り組みであったり、学校であったり、活動が多岐にわたり、全体像が捉えにくい感じがします。最初に、運動すると気持ちが楽になった、運動は脳にいい影響があったという体験と、アメリカの道場で交流できてよかったという体験をお話しされてますが、この二つの体験が根底にあるということでしょうか。

酒井:はい。judo3.0の活動を1階と2階に分けて説明することがあります。1階部分は、子供、大人問わず、誰しもが運動の効能を得て心身の健康や幸せを得ること、柔道にアクセスできない人々がアクセスできるようになることです。judo3.0は、発達が気になる子供、中高年、ろう者、ビギナー女子などがもっと柔道にアクセスできるように、という活動を行っていますが、これらのインクルーシブな柔道環境を目指す活動が1階部分にあたります。 そして2階部分が子供のグローバルな教育としての国際柔道交流です。1階部分の誰しもが柔道にアクセスできるという土台があってはじめて、2階部分で国際柔道交流ができると考えています。

栗田:「judo3.0とは何か」が本日のテーマですが、私は今回お話を伺って、国内外の様々な指導者がつながる、指導者のコミュニティ作りが中心にあって、そこから国際柔道交流、発達障害の取り組みなどの様々なプロジェクトが派生している、と捉えました。しかし、judo3.0のウエブを見てもそのような説明はありません。

酒井:judo3.0の様々な活動が指導者のつながりから生まれていることはその通りです。例えば、国際柔道交流は日本の指導者と海外の指導者がつながることで生まれますし、発達障害のワークショップは現地の指導者が場所を用意して、地域の指導者らに声をかけてくださることで実現します。したがって、活動の中核に指導者のコミュニティづくりがあるのは確かなのですが、コミュニティはコミュニティを作ろう、ということでは生まれません。何らかの活動があるからこそ、やることができて、人との関わりが生まれるので、コミュニティを作っていくためにもこれからどのような活動をしていくかが大事だと思っています。

栗田:次回は、今回の回答をもとにさらにインタビューをして、judo3.0とは何か?judo3.0が創出する価値は何か?という問いを深めていきたいと思います。

ご意見・ご質問の募集(匿名可)

judo3.0ではこれからの活動を考えるためご意見、ご質問を募集しております。以下のフォームからご教示いただけたら幸いです(匿名可)

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