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大宮ろう学園でデフ柔道日本代表・佐藤正樹選手が柔道交流会を開催

2024年2月26日、埼玉県立特別支援学校大宮ろう学園(さいたま市)で、デフリンピック日本代表・佐藤正樹選手(ケイアイスター不動産/ケイアイチャレンジドアスリートチーム)が柔道交流会を行いました。

この交流会は2025年11月に東京で開かれるデフリンピックを盛りあげようと埼玉県柔道連盟/埼玉県女子柔道振興委員会が佐藤選手とともに企画。大宮ろう学園の主催で開催されました。また、当日は指導サポートとして平成国際大と東京学芸大の学生、志茂柔道クラブ(東京都北区)のメンバーが参加。NPO法人judo3.0は準備過程で情報交換機会を提供し、本稿作成は認定NPO法人JUDOsが担当しました。
〈本稿は埼玉県柔道連盟・埼玉県女子柔道振興委員会、NPO法人judo3.0、認定NPO法人JUDOsの共同製作です〉

手話と口話で自身の経験を語った佐藤選手

交流会は中学部の保健体育の授業2コマを活用して生徒25名が参加し、佐藤選手による講演と柔道体験による2部構成で行われました。

まず行われた講演で佐藤選手は、柔道を始めたころの話からデフ柔道日本代表として活動する現在までの歩みを紹介。柔道の大会で優勝したこときっかけで友だちができた小学生時代のことや、補聴器がイヤになったこともあったという中学生時代の反抗期のことなど、自身の経験を率直に語りました。

また、柔道は礼節を重んじ、相手を尊重する武道でありスポーツであること、ネガティブな現状を変えるためにどんなこともポジティブに捉える発想が大切であること、さらには、座右の銘としている「不撓不屈」の四文字を黒帯に刺繍して自分を鼓舞していることなどについて、手話と口話をまじえて語りかけました。

その後、休憩を挟み、アイスブレイクを行ってから柔道体験タイムに突入。

まず、ゆりかご運動とだるま運動、前受身、後ろ受身を行って身体をほぐしてから、埼玉県柔道連盟が用意した柔道衣に身を包み、大腰にチャレンジしました。

生徒の多くが補聴器を使っており、人工内耳を装着している人もいましたが、佐藤選手の助言のもと、サポート隊が頭部を支えるなどして安全面に配慮しながら、ひとり3回ずつ技を掛け、柔道の醍醐味を味わいました。

技体験に入る前に、佐藤選手が背負投と袖釣り込み腰を披露。生徒たちはその迫力に驚きつつ、拍手を贈っていました。

技体験の際には埼玉県柔道連盟が用意した柔道衣を着用。「柔道衣が分厚く、身体を護るものだということも知って欲しい」と佐藤選手は話していました。

こうして交流会は2時間にわたって行われ、無事修了。佐藤選手は締めくくりに生徒たちにこう語りかけました。

「今日は楽しい時間を過ごさせていただき、ありがとうございました。皆さんはふだん生活していると周りに聞こえない人はあまりいないかもしれませんが、世界にはたくさんいます。私は柔道を続けてきたから、世界中に友だちができました。皆さんも今、何か頑張っていることがあれば、ぜひそれを続けて世界とつながるきっかけにしてください。私自身、これまで苦労してたくさんのことを乗り越えてきました。でも、これは私にしかない経験。この経験を活かしてこれからも人のために尽くしていきたいと思っています」

サポート隊は練習してきた手話で自己紹介。生徒たちは大喜びで手話を見ていました!

終了後、生徒の皆さんから佐藤選手とサポート隊に記念品が贈呈されました。

指導サポートに入った皆さんの感想(順不同、敬称略)

柴﨑 翔(平成国際大1年)

「自分の言いたいことを伝えるのが難しい面もありましたが、中学生に教えるのはとても楽しかったです」

佐々木涼太(平成国際大1年)

「ろう学校での柔道指導のサポートということで、ふだんできない体験をさせていただきました。柔道を通して中学生と交流できて楽しかったです」

矢島圭大(平成国際大4年)

「このような機会に参加させていただき、ありがとうございました。4月から警察官になるので、今回の経験で視野が広がったことを活かしていきたいと思います」

川端千晴(東京学芸大特別支援教育特別専攻科1年)

「4月から東京都の教員になります。特別支援学校やろう学校に配属になったときに、今日の経験を活かしたいと思います」

川原輝子(東京学芸大1年)

「こういった企画に参加したのは初めてだったのですが、今後、ろうの子どもたちに柔道を教える機会があったら、ぜひ参考にしたいと思いましたし、またこういうことをやってみたいと思いました」

菅 麗子(埼玉県女子柔道振興委員会)

「貴重な体験をさせていただきました。ろう学校や特別支援学校の中に入ったのは初めてで、ろう学校に通う子どもたちに接したこともなかったのですが、イメージが変わりました。皆さん、とてもハキハキしていて積極的で元気いっぱいで私もとても楽しかったです」

川原久乃(埼玉県柔道連盟・埼玉県女子柔道振興委員会/平成国際大女子柔道部コーチ)

「本日はおつかれさまでした。佐藤選手とデフ柔道の応援を通じて、ろう学校の子どもたちと交流する機会を持つことができました。このような企画が今後広がっていくといいと思います」

五十嵐 茜(志茂柔道クラブ)

「ろう学校での柔道交流イベントに参加したのは初めてでした。もっと手話を勉強してろうの子どもたちに柔道を教えていけるようになりたいです」

堀 資雄(志茂柔道クラブ主宰)

「ふだんから手話も使って柔道を指導している者として、今日のような機会は大変うれしく、楽しく参加させていただきました。まじめな話を手短に言うと、佐藤選手はデフ柔道選手として世界で戦っているうえ、柔道を深く理解し、指導者としても活動している稀有な存在です。今後、佐藤選手のような柔道家がどんどん出てきてほしいと思いますし、手話で指導する人が増えてほしいと思います。とくに今日参加された大学生の皆さん、離しませんよ!(笑)ぜひ志茂柔道クラブに来てください」

【視察後記】積極的な生徒たち。終了後には「出待ち」も

印象的だったのは生徒の皆さんの旺盛な好奇心です。約15分間の講演では真剣なまなざしで佐藤選手の話に見入り、その後の質問コーナーでは次々に手が挙がり、質問者は元気に前に出て、いきいきと手話で話す——。

手話は視覚言語であるため、話者が相手(その場にいる人たち)に見えるような位置から話す必要がありますが、そうであったとしても、人前で臆せず自分を表現する姿には、自分の感じたことを率直に表現する力が身についていること、そして安心して学校生活を安心して送っている様子が感じられました。

休憩を挟んで行われた柔道体験タイムでは、佐藤選手の背負投と袖釣り込みのデモンストレーションが行われました。その姿を食い入るように見つめ、技が決まると驚いた表情を浮かべながら、「すごい!すごい!」と手話で感動を表現したり、声を出せる人は声を出して拍手喝采を贈りました。

また、生徒の中に柔道経験者はおらず、補聴器や人工内耳を使っている生徒が多いと事前にうかがっていたことから、頭部保護のため、マット運動はあまり経験がないのでは、と想像していましたが、ゆりかご運動やだるま運動をやってみると、難なくこなす人も少なくなく、柔道のような全身運動も安全面を考慮して工夫して行えば、きっと楽しく取り組める人も多いのではないかと思いました(もちろんもともと得意な子もたくさんいたのだろうと思います)。

さらに想定を超えてうれしかったのが、帰り際、会場となった体育館の出入り口に「出待ち」の生徒たちが集まっていたこと。

着替えを済ませた佐藤選手が出入り口に現れると走りより、写真撮影をお願いしたり、サインをもらったり、ぶんぶん握手をしたり。佐藤選手はこの日、わずか数時間ですっかり生徒たちのアイドルになっていました。

ちなみに講演時に生徒たちから挙がった質問は主に段位のことや帯の色などについてで、「帯は何色がありますか?」「段位を取るのにお金はかかるのですか?」といった内容だったのですが、休憩時間には女子生徒が近づいてきて、川原久乃さんが締めている紅白帯を指差し、「その帯は何段ですか?」と尋ねる場面も。恥ずかしがるでもなく、関心をストレートに表すその様子がとても自然だったのがとても新鮮に映りましたし、交流会の立案者である川原さんも目をまるくしながら「なんて積極的なの!柔道に興味をもってくれてうれしい」と笑顔を浮かべて喜んでいました。

大宮ろう学園の皆さん、このたびはありがとうございました。(記/JUDOs 佐藤温夏)

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