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10年ぶりの文部省調査「小中学生の8.8%に発達障害の可能性」を読む

2022年12月13日、文部科学省より、「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について」が公表された。この調査報告によりメディアで「小中学生の8.8%に発達障害の可能性」などの見出しで報じられたが、この調査報告を詳しく知ることは、日本の教育の現状と課題を把握して、柔道教育の今後を考えるうえで有益である。以下そのポイントを見ていきたい(3.0マガジン編集部)。

「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について」令和4年12月13日

  • この調査は、発達障害のある子供の有無を調査したものではない。あくまで教師の視点からみて特別な教育支援を必要とする生徒を把握したものである。
  • 本稿では、発達障害であるとの診断を受けた子供、そして、基準は満たさないがその特定がある子供、いわゆるグレーゾーンの子供、双方を指して「発達に凸凹(でこぼこ)のある子供」「凸凹の子供」と表記する。また、特別の教育的支援を必要とする子供、発達凸凹の子供、どちらも同義で使っている。

調査の対象・方法

  • 対象は、公立の学校で、小学校、中学校、高校の、通常学級の生徒についての調査である。したがって、私立の学校や特別支援学級の生徒は対象ではない。
  • サンプル調査である。2022年の出生者数は80万人を下回る見込みであるが、大雑把にいうと、1学年100万人と仮定して、小学生600万人、中学生300万人、高校生300万人、合計1200万人、このうち私立の学校や特別支援学級の生徒などを除いた子供が母集団となるが、ここから小中高、それぞれ600校をランダムに抽出、その学校の中で1つの学級をランダムに抽出して、1つの学級の中で10名をランダムに抽出という方法をとる。
  • ランダムに抽出された生徒について、学級担任等がアンケートに回答、その内容を特別支援教育コーディネーター又は教頭が確認して校長が了解したうえで提出。この方法からも分かる通り、あくまで特別な支援を必要とする生徒を把握するための調査であり、医学的見地から発達障害の有無を調査したものではない。
  • 上記のアンケートを実施して、対象となった生徒の85%について回答があり、小中高、合計7万5000人程度のアンケートが集まった。

調査の項目

①子供がどのような困難な状況にあるか、②子供がどのような支援を受けているか、の2点を調査する。

①子供の困難な状況の分類は以下の通り。

学習:「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」
行動:不注意・多動性-衝動性
行動:対人関係やこだわり等

アンケート用紙にそれぞれ具体的な項目が上げられており、どれぐらい当てはまるかを学級担任等が確認する。調査報告にアンケート用紙(「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」質問項目))が添付されているが、以下、抜粋する。

学習上の困難(抜粋)
  • <聞く>個別に言われると聞き取れるが、集団場面では難しい
  • <話す>単語を羅列したり、短い文で内容的に乏しい話をする【共通】
  • <読む>初めて出てきた語や、普段あまり使わない語などを読み間違える【共通】
  • <書く>読みにくい字を書く(字の形や大きさが整っていない。まっすぐに書けない)【共通】
  • <計算する>読みにくい字を書く(字の形や大きさが整っていない。まっすぐに書けない)【共通】
  • <推論する>学年相応の数の意味や表し方についての理解が難しい(三千四十七を300047や347と書く。分母の大きい方が分数の値として大きいと思っている)【小学校】学年相応の量を比較することや、量を表す単位を理解することが難しい(長さやかさの比較。「15cmは150mm」ということ)【小学校】
行動上の困難(抜粋)
  • <不注意>学業において、綿密に注意することができない、または不注意な間違いをする
  • <多動-衝動性>手足をそわそわと動かし、またはいすの上でもじもじする
  • <対人関係やこだわり等>会話の仕方が形式的であり、抑揚なく話したり、間合いが取れなかったりすることがある

それぞれの質問項目は、学習は学習障害、行動(不注意-衝動性-多動性)はADHD、行動(対人関係やこだわり等)は高機能自閉症に関する基準をもとに作成されている。

子供の受けている支援の状況(②)を調べる質問項目は以下の通りである。

  • 校内委員会において、現在、特別な教育的支援が必要と判断されているか
  • 現在、通級による指導を受けているか
  • 過去に特別支援学級に在籍していたことがあるか
  • 「個別の教育支援計画」を作成しているか
  • 「個別の指導計画」を作成しているか
  • 特別支援教育支援員の支援の対象となっているか(支援員一人が複数の児童生徒を支援してい
  • 授業時間以外の個別の配慮・支援を行っているか(補習授業の実施、宿題の工夫等)
  • 授業時間内に教室以外の場で個別の配慮・支援を行っているか(通級による指導を除く)(個別指導等)
  • 授業時間内に教室内で個別の配慮・支援を行っているか(特別支援教育支援員による支援を除く)(座席位置の配慮、コミュニケーション上の配慮、習熟度別学習における配慮、個別の課題の工夫等)
  • 専門家(特別支援学校、巡回相談員、福祉・保健等の関係機関、医師、スクールカウンセラー(SC)、作業療法士(OT)など)に学校として、意見を聞いているか

調査結果①

それではどのような調査結果だったのか。報告書では詳細な分析が行われているが、ここでは4点に絞ってふれていきたい。

第1に「小中学生の8.8%」について、学習面と行動面の内訳についてである。

  • 学習面で著しい困難を示す:6.5%
  • 「不注意」又は「多動性-衝動性」の問題を著しく示す:4.0%
  • 「対人関係やこだわり等」の問題を著しく示す:1.7%

大雑把にいうと、40人学級であれば、学習に困難がある子供が2,3人、不注意や多動・衝動で行動面に困難がある子供が1,2名、対人関係やこだわりで行動面に困難がある子供が1名いるという状況である(1人の生徒が学習と行動の困難どちらも有していることがある)。

柔道指導の観点から考えると、学習面については、生徒の進学に頭を悩ませている少年柔道クラブの指導者や中学柔道部の指導者は少なくない。特に、高校進学については、以前と異なり、柔道大会での実績があっても、中学校で一定以上の成績をとっていなければ、推薦で高校に進学することができなくなってきたという話も耳にする。

指導者は直接学習の指導はしないとしても、生徒の学習上の困難について把握して、関係者と連携して対応する必要がある。なぜなら、子供の学習上の困難が身体の問題から起因していることがあるからである。例えば、姿勢を維持する力が弱いと、授業中に先生の話を聞くことやノートに字を書くことなどが難しくなる。また、たとえ理解していても、手先が不器用で文字を書くスピードが遅ければテストの点数に反映されない。身体をうまく動かせるか否かと学習は密接に関係していることに留意する必要がある。

不注意や多動-衝動性で行動に困難がある場合、基本的に、運動が必要である。近年の脳の研究は有酸素運動によって注意力が向上したり、衝動性が抑えられたりすること、運動がADHDの薬と同じような効果があることを示している。指導者は、不注意や多動-衝動性で行動に困難がある子供がいたら、有酸素運動が不足していないか、増やすことができないか、を確認する必要があるだろう。

対人関係やこだわりで行動面に課題がある場合、本人は集団の中で孤立しがちになるが、指導者は、柔道やスポーツが非言語コミュニケーションとしての側面があり、言語に多く頼らずとも、そのコミュニティの中で本人の居場所をつくることができる強みに注目して、子供の居場所づくりに配慮する必要がある。

調査結果②

第二に、「小中学生の8.8%」について、小学生と中学生を分けて考えることである。小学生と中学生を分けると、以下になる。

  • 小学生:10.4%
  • 中学生:5.6%

小学生の10人に一人は特別な支援を必要としている。さらに、この調査では学年別でも調査しているが、小学1年生は12%である。

小中学生の8.8%という数字よりも、小学1年生の12%という数字のほうがこの課題の大きさを把握できるだろう。この点は後述する。

調査結果③

第三に、10年前と比較すると増加している点である。質問項目が異なる部分があるので単純な比較はできないが、小中学生の通常学級で特別な支援を必要とする生徒について、10年前は6.5%であった。今回は8.8%である。

この10年で通級の指導を受ける生徒は2.5倍になっているので増加は予想されていたことであったが、増加の原因について、調査報告書は以下のようにコメントしている。

「増加の理由を特定することは困難であるが、通常の学級の担任を含む教師や保護者の特別支援教育に関する理解が進み、今まで見過ごされてきた困難のある子供たちにより目を向けるようになったことが一つの理由として考えられる。そのほか、子供たちの生活習慣や取り巻く環境の変化により、普段から1日1時間以上テレビゲームをする児童生徒数の割合が増加傾向にあることや新聞を読んでいる児童生徒数の割合が減少傾向にあることなど言葉や文字に触れる機会が減少していること、インターネットやスマートフォンが身近になったことなど対面での会話が減少傾向にあることや体験活動の減少などの影響も可能性として考えられる。」(赤字は筆者)

調査結果④

最後に、子供の受けている支援の状況(②)であるが、小中学生についての結果を抜粋すると、

校内委員会において、現在、特別な教育的支援が必要と判断されている
必要と判断されている 28.7%
必要と判断されていない 70.6%

特別な支援を必要とする生徒について、学校として支援が必要と認識されている生徒はわずか3割、7割の生徒は見過ごされている、

「授業時間内に教室内で個別の配慮・支援を行っているか(特別支援教育支援員による支援を除く)(座席位置の配慮、コミュニケーション上の配慮、習熟度別学習における配慮、個別の課題の工夫等)
行っている 54.9%
行っていない 43.2%

学校全体としては3割の子供しか把握しておらず、7割の子供は見過ごされているが、担任の先生は5割以上の子供を把握、できる範囲での配慮をしており、それでも4割の子供は見過ごされている、という現状であると言える。

柔道やスポーツへの示唆

以上が調査報告書の要点があるが、この公立学校の調査報告から、柔道やスポーツはどのような示唆を得らえるだろうか。

まず注目すべきは小学生の10%が特別な教育的支援を必要としているという実態である。当然ながら、彼ら彼女らは学校だけでなく、スポーツをする環境でも特別な教育的支援を必要としている。しかし、各所で散発的な取り組みは行われているとしても、柔道や野球、サッカー、マラソンなど、スポーツ種目別にみて、この課題に組織的の取り組んでいるスポーツ組織は、見聞きする限り、見当たらない。小学生の10人のうち一人が必要としているにもかかわらずである。

公立学校が特別支援教育を拡充しているように、それぞれスポーツ組織も発達に凸凹のある子供の環境整備に取り組む必要がある。そして、環境をいち早く整備したところに子供が集まるだろう。

それでは、柔道に関して具体的にできることは何だろうか。ここでは二つの方法を提案する。

一つ目は指導者へのノウハウの提供である。各地に発達障害の専門家がいるので専門家を招いての指導者への研修は有効である。NPO法人judo3.0は、発達障害の可能性がある子供への指導法のノウハウを開発整理して、2018年から各地で指導者や保護者向けにワークショップを開催、2020年にはそのノウハウをまとめた書籍「発達が気になる子が輝く柔道&スポーツの指導法」を制作した。コロナ禍になってワークショップは開催できなくなったが、最近コロナ禍が少し落ち着いてきたこともあり、ワークショップの再開を進めている。多くの指導者は指導に悩んでいるが、相談したり、話し合える相手がいない。研修や相談先など指導者を支える仕組みが必要である。

新潟!発達凸凹と柔道指導ワークショップ

二つ目は、柔道クラブで発達に凸凹のある子供に向けた柔道体験イベントを開催することである。柔道は敷居が高い。「うちの子は運動が苦手なので」「周りに迷惑をかけるかもしれないから」などの理由で、柔道に関心があっても実際に柔道クラブに足を運ぶことができない人々がたくさんいると思われる。それぞれのクラブで、発達障害について知識と理解を得て、小学生の10名に一人と言われる特別な支援を必要とする子供たちを柔道クラブに積極的に招き入れていくことが必要とされている。有志の柔道クラブは、昨年から、4月2日が世界自閉症啓発デーであることを受けて、3月から4月にかけて、世界自閉症啓発デーの啓発イベントとして、発達凸凹の子供向けの柔道体験イベント(受身あそび教室)を実施している。このような取り組みが広がっていくことが必要である。

柔道人口増につながるか。受身あそび教室のポイント解説

以上、文部科学省の調査報告のポイントとこの報告から得られる柔道やスポーツへの示唆についてふれた。最後に、柔道と発達障害について参考文献を三つ紹介する。

第1に、柔道クラブにおける発達凸凹の子供の実態については、島根県立大学准教授の西村健一氏が1つの都道府県という大きい規模で調査した研究がある。詳細は「日本初の実態調査。1つの柔道クラブに平均2.2名の発達障害の可能性のある子供が在籍」を参照されたい。

第2に、本文でもふれた「発達が気になる子が輝く柔道&スポーツの指導法」である。特別支援教育やスポーツ指導には様々な知見があるが、発達凸凹のある子供への柔道やスポーツの指導という限定された局面で最も実用的だと思われる知識やノウハウを整理したものである。

第3に、2023年1月下旬に発売予定の「誰一人取り残さない柔道 柔道人口が増える3つの視点」である。柔道の登録人口は減少している。本稿でもコメントしたが、以下この点に関して、この書籍の「はじめに」の一部を抜粋する。

第2章では、発達に凸凹(でこぼこ)のある子供の柔道を見ていきます。2022年12月に公表された文部科学省の調査によると、発達障害の可能性がある小中学生が8.8%、約80万人います。彼ら彼女らが柔道で成長していく様子を見たら、凸凹の子供の発達を支える柔道に大きな可能性があることに気付くでしょう。日本の柔道がこのまま縮小するか、それとも盛り返すかの分岐点の一つは、「柔道は凸凹の子供の発達に良い」という実績と評判を組織的に築くことができるか否かにあると考えています。」

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