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デュッセルドルフで柔道を指導して

皆さまはじめまして、ドイツのデュッセルドルフで柔道の指導をしている江口貫拙と申します。この記事では私のデュッセルドルフでの指導者としての体験やそれの通じて感じたことなどを紹介していこうと思います。

ドイツと柔道

まずドイツという国ですが、正式名称はドイツ連邦共和国と言い、統治権を保有する16の州から成るEU最大人口を有する国です。1990年10月3日の東西ドイツ統一後、再びベルリンを首都としています。私の住んでいるデュッセルドルフという街はドイツの西側に位置するノルトライン=ヴェストファーレン州(NRW州)という所にあり、ベルギー、オランダとの国境近くに位置しています。サッカーの強豪国として知られ、多くの日本代表の選手もプレーしており、サッカーファンにはドイツのブンデスリーガはとても聞き馴染みのある言葉ですね。

ドイツの柔道についてですが、近年では2017年ブダペスト世界選手権81kg以下級金メダリスト、また2018年バクー世界選手権81kg以下級銅メダリストでもあるAlexander Wieczerzak選手が有名です。ドイツ柔道連盟には約143,000人が登録していますが競技人口は年々減少傾向にあります。(2018年統計)。その中でも7歳から14歳の競技人口が特に多く、逆にそれ以降になると極端に競技人口は下がってしまいます。しかし15歳以上もどの年齢層にも一定数の競技者がおり、生涯を通じて柔道に取り組んでいる人は多くいるということが言えます。

私の経歴

少し私の経歴をお話しさせていただきます。
小学校一年生から高校卒業まで京都で柔道の練習に励み、大学入学後は一度柔道から離れ、学生プロレスをしていました。そしてご縁があり、大学の教授から紹介していただいたデュッセルドルフの日本人幼稚園で体育教員として2013年から2年間働きました。その時に現地の友達を見つける手段として柔道をもう一度始めてみようと思いました。初めて街のクラブチームJudo Club 71 Düsseldorf(JC71)を尋ねた時には少し緊張もありましたが、いざ行ってみると歓迎してくれて、片言の英語でもすごく気さくにそして親切にみんなが対応してくれたのを覚えています。

その後、日本人幼稚園との2年間の契約が終わり、日本に帰るかもう少しヨーロッパ生活を堪能しようかと迷っている時にチームのボスがちょうどトレーナーを探していたところだから一度チームで働かないかと声をかけてくれたのがドイツで指導者になるきっかけでした。はじめはチームの10歳以下の子供達の指導、そして学校が終わってからの課外活動としての柔道教室の指導などを任されましたが、いかんせんドイツ語を勉強していなかったおかげで大変苦労しました。その後は15歳以下と18歳以下のグループの練習も見るようになり、2018年からデュッセルドルフ市の15歳以下の代表監督(Bezirkstrainer)、そして2019年からはチームの監督と並行してノルトライン=ヴェストファーレン州柔道連盟(NWJV)でNRW州の15歳以下の代表監督及び21歳以下女子の代表監督(Landestrainer)をしています。

日本とドイツの指導法の違い

ドイツでの指導を始めるにあたってまず参考にしたものは、自分が日本で教わってきた柔道でした。基礎を徹底的に繰り返し、成長のために自分を厳しく律する、というものでしたがいくら彼らに伝えようとしても全く響くことはありませんでした。特に子供達というのは自分が楽しむために柔道をやっており、つまらない、やりたくないと思ったらテコでも動かないほど頑固なものです。これは自分の意見はしっかりと伝えるというドイツの教育理念や、知り合いどうしは敬語で話さないというトレーナーと生徒の間の関係性の違いが背景としてあることが理由として挙げられます。それからはいかにして子供達のモチベーションを高く保つかということを考えるようになりました。例えば、普通のウォーミングアップの代わりに柔道の基礎的動作に関連するゲーム性のある運動やパートナーと楽しくできる運動などを取り入れることで子供達の柔道に取り組む姿勢は大きく変わりました。

また、15歳以下、18歳以下の指導を任されるようになってから非常に驚いたことがあるのですが、生徒達の積極的な姿勢です。練習メニューや指導する技に関する質問や要望が常に飛び交います。なぜこれをやるのか、自分の技がうまくいかない原因は何か、このような練習がしたいetc…。このような姿勢は私にいつどのような質問が来ても答えられるようにしなくてはというプレッシャーを与えてくれ、指導者としての成長にも繋がりますし本当にありがたく思います。私が日本で柔道をしていた時というのは、先生から言われたことを必死にこなすのみで、その意味やその先の成長の見通しをうまく捉えることはできていなかっとと思います。自分で考え行動し、必ず疑問があれば質問する。この姿勢が後に大きな成長をもたらすと思います。

ドイツで柔道をしてからの心境の変化

日本で柔道の練習をしていた頃は常に試合に勝つために練習をしており、結果が全てという考えがありました。しかしその考え方のせいか、高校で成績が振るわなかったこともあり柔道に対する情熱が冷めてしまい、一度は柔道から遠ざかってしまいました。しかしドイツのクラブチームでは年代ごとのグループで、上級者も初心者も若い選手もベテランも一緒に練習する環境があり、様々な目的や考えを持った柔道家達と触れ合うことで柔道に対して新たな価値観を見出し、心から柔道を楽しむことができました。

ドイツにおける柔道に対する考え方には二面性があり、Leistungsport(競技スポーツ)とBreitensport(生涯スポーツ)とに分類できます。日本では多くの小学生たちが町道場で、中学生から大学生までが各学校・大学で、そしてその中から活躍が期待される選手達が各実業団で柔道の練習を行うという縮図があると言えます。そこには競技スポーツとしての受け皿はある程度用意されているが、生涯スポーツとしての受け皿がまだまだ少ないように思います。トップアスリートとして活躍できる選手、そして活躍できる年齢というものには限りがありますし、このトップアスリートに該当しない柔道家達の方が圧倒的に多いのは周知の事実だとおもいます。実際に私自身も一度柔道家としての道を諦めました。その時には自分が現在のように柔道と関わっているとは思いもしませんでした。

しかしドイツに来たことで、柔道と触れ合える機会がある、柔道をする場所があるということがこんなにもありがたいことなのだと改めて思い知らされました。特に指導者という立場になると技や戦術についての分析が必要になり、その分析をすることでさらに柔道への関心が高まり、自分でもその考えた技や戦術を試して見たくなり、競技選手の頃よりもさらに柔道にのめり込んでいく感覚がありました。今後日本でも年齢や実力などの垣根のない練習環境や場所がさらに整っていくことで、私のように一度競技者としての幕を降ろしたとしても、生涯を通じて柔道に興じてくださる柔道家達が増えることを願っています。

最後に

日本の柔道は現在も世界トップスラスの実力があり、練習環境としては申し分ないと思います。しかし日本以外でも多くの柔道家達が世界各国で練習に励み、日々研究を重ねています。これまでヨーロッパ各国で練習や合宿、大会に参加しましたが、それぞれの国の文化、教育、民族性なども柔道に色濃く出ており、本当に様々な角度から柔道を見ることができ、武道としての柔道を改めて考えさせられる場面もたくさんありました。さらには海外の選手から教えられることもたくさんありました。

みなさんが日本で培った柔道家としての経験を活かせる場所は世界中にたくさんあります。全ての柔道家がみなさんのこと歓迎してくれるはずです。競技者としても指導者としても日本以外の地に目を向けることは素晴らしい経験になると思います。ぜひ一度ドイツにも足を伸ばして見てください。柔道の練習の相談などありましたらいつでもご連絡ください。

江口貫拙

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