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「試合に出るのがこわい」ビギナーの大会は柔道普及の新しいアプローチ!?

2024年6月29日(土)、東京学芸大学柔道場にて、ビギナー大人女子親善柔道大会が開催され、17名の参加者が1名あたり柔道経験者と3試合を行い、講習会で技を習ったり、交流会で他の参加者や運営メンバーと交流をしました。また、会場にはキッズコーナーが設けられ参加者のお子さんがキッズコーナーで遊びながら母親の試合を熱心に観戦していました。

当日の様子の動画

なぜ「試合が怖い」大人の女性が柔道大会に参加したのか?柔道普及の新しいアプローチ

本大会はNPO法人judo3.0と東京学芸大学畳上ラボが共催、埼玉県女子柔道振興委員会と認定NPO法人JUDOsが協力、当日は28名の有志が大会運営に携わりました。「試合に出るのがこわい」「周りに柔道をする大人の女性がいない」というビギナーの大人の女性の課題をどのように解決したらいいのか、運営メンバーが試行錯誤しながら作り上げた大会となります。以下、その内容や意義についてについてご報告いたします。

いつか試合に出たいけど、

この取り組みはjudo3.0が毎週金曜日に開催しているオンライン上の勉強会兼交流会で、ある女性から伺った以下のお話がきっかけになりました。

「大人になって柔道を始めてみたら、柔道がとても楽しい。周りに大人で柔道をする女性がいないのでさびしいけれども、楽しみが一つ増えて毎日にハリがでた。ただ、仕事の合間に月に数回行く程度の稽古なので、週に何回も稽古している子供達のようには上達しない。でもいつかは試合に出たいと思っていた。あるとき、小学生と試合する機会をもらった。私は、未熟な私でも小学生となら試合しても大丈夫だろうと思った。しかし、小学生に投げられたとき、うまく受身をとれず、頭をぶつけてしまった。この経験以降、私にはもう試合は無理だと思った」

子供の場合、週に何度も稽古をして何度も投げられ、半年から1年ぐらい経てば受身をとれるようになって、大会に参加して、試合を味わうようになります。しかし、仕事の合間に少しだけ稽古をする大人の場合はそうとは限りません。柔道を始めたけれども、「試合に出たらケガをしてしまうかもしれないので、試合はまだ無理」とか「周りに大人で柔道をする女性がいなくてさびしい」と思っているビギナーは少なくないのではないか。少子高齢化が進む日本では、大人が生涯にわたって柔道を楽しむことができる環境が求められています。そこで、有志が集い、このようなビギナーの女性が抱える課題をどうにか解決できないか、話し合いました。

その中で浮かんだアイデアが「ビギナー同士が試合をするのは危ない。しかし、長年柔道の稽古を積んできた熟練者を相手に試合をしたら安全安心に試合ができるのではないか。熟練者であればビギナーを投げるときは安全に投げることができるし、いいタイミングで技をかけられたら投げられることもできる」というものです。いわゆる「引き立て稽古」に類するものですが、試合と同じ雰囲気で行ったら、試合と類似した経験を得ることができます。そしてこの経験によって「試合が楽しかった。次は本当の試合に出てみよう」と次のステップアップのきっかけになったらいいなと思いました。

そこでこの方向で進めることにしていくつか工夫しました。

まず、2分以内に、1本ではなく、2本とったら勝ちとしました。相手に対していいタイミングで技をかけたら、相手を投げることができる、すなわち熟練者が投げられます。自身の技を披露する機会が多ければ多いほど参加者は柔道の試合を楽しむことができるし、良いプレッシャーになると考えました。次に、熟練者は安全に投げることができると判断したとき、参加者を投げますが、参加者が受身をとったらポイントなしとし、何度投げられても勝敗には影響しないとしました。「負けたくない」ということで過度に防御の姿勢になって自分から技をかけなくなったり、「投げられまい」と無理な体勢をとってケガをしたりすることを避ける狙いもあります。とにかく2分以内に2本とることに集中して、積極的に攻めて相手を投げた、という体験を積み重ねてほしいと思いました。また、一般のトーナメント戦だと半数が1試合で終わりますが、試合の経験をたくさんしてほしいと考え、全員が3試合できるとしました。

さらに、道場内にキッズコーナーを設けました。キッズコーナーは試合会場のすぐ脇にあるため子供たちは遊びながらお母さんの試合を間近で見ることができます。さらに柔道の講習会で技の理解を深めたり、交流会で他の参加者や運営メンバーと話し合ったりする機会を設けました。

このように有志で話し合って企画を作りましたが、初めての試みなので、どのぐらいのニーズがあるのか見当が付きません。

「このような企画に参加したいと思うビギナーの女性がどれぐらいいるのだろうか?」「そもそも大人になってから柔道を始めた女性は近隣にどのぐらいいるのだろうか?」「実際にいるとしてもこの企画があることを知っていただけるだろうか?」「どうやったら知っていただけるのだろうか?」など様々な疑問がありましたが、募集を始めたところ、10代から60代まで幅広い世代から18名が参加申込をしてくださいました。その多くが所属するクラブの指導者から「こういう機会があるよ」とご案内いただいたことがきっかけですが、SNSやWEBを見て知った、という方もいらっしゃいました。

参加者の多くは柔道を始めたので試合に出たいけれども「ケガをするのが怖い」「自分のレベルにあった大会がない」と思っていた方々ですが、そのほか、昔、学校の柔道部だったが、大人になって稽古をしておらずブランクがあるから、安心して参加できる大会だから選んだという方もいらっしゃいました。なお、「どこまでが試合に参加できるビギナーなのか?」というご質問もいただきましたが、熟練者と安全安心に試合をする、というこの形式を望む方であればどなたでも参加できるとしております。

当日

当日は、アイスブレークとしてお互いに自己紹介をしたのち、書籍「子どもの身体の動きが劇的に変わる コーディネーションゲーム60」(ベースボール・マガジン社 2021)の著者(共著)である久保田浩史先生(東京学芸大学柔道部監督)が「柔道あそび」を実施、楽しく身体を温めながらお互いの交流を深めていきました。

そしてビギナー大人女子の試合が始まります。二つの試合場に分かれ、参加者はそれぞれ経験者と試合を行いました。そして試合が終わるたびに対戦相手から参加者に対して「〇〇はすごくよかった。次の試合では〇〇」とフィードバックが行われました。参加者が対戦相手を投げるたびに歓声が上がり、また、2分以内に2本とろうとする参加者の奮闘に「ファイト!」「もうすこし」「いけ!」「あと30秒」などの応援の声がかけられていました。あっという間に一人3試合、合計51試合が終わりました。

会場にはキッズコーナーが設置され、運営メンバーが子供を見守りました。子供たちは道場内で自由に遊びながら、お母さんの試合になると熱心に観戦していました。試合の歓声とともに、子供達の遊んでいる声が道場内に響いていたことがこの大会の一つの特長だったと思います。

試合後は参加者と運営メンバーが小グループに分かれて話し合う交流会。緊張した試合は終わり、皆さんほっとした表情して、普段なかなか会う機会が少ない、柔道をする大人との会話を楽しんでいました。

その後、講習会と希望者による乱取りが行われました。講習会では「柔道けんこう体操」を開発した森脇保彦先生が「投げない柔道」を指導し、また、参加者からの立技や寝技についての相談に川原久乃先生(埼玉県女子柔道振興委員会)や飯田純子先生(川口市柔道連盟クラブ)ほか女性の指導者が応じました。

最後に技能賞の表彰が行われ、さらに参加賞として、運営メンバーのコメントを記した色紙とNPO法人judo3.0の書籍「誰一人取り残さない柔道 柔道人口が増える3つの視点」が参加者全員に手渡されました。

大会後、参加者の皆様にアンケートを通じて伺ったところ、例えば、以下のような感想をいただきました。

  • 当日の朝は緊張して帰りたいくらいだったが、大会が進むにつれて楽しくなった。来年も出たい。
  • 大人のビギナーの女性の皆さんに会えたことが嬉しかった。周りにはあまりいなかったが、結構いることが分かって驚いた。
  • 技能賞をもらってうれしかった。家族に心配されながら出場したので家族に自慢したい。
  • 技はうまくかけれないし、受身もうまくとれないことがあるので、人前で試合をして笑われたらどうしようと思っていました。しかし、先生方が一生懸命応援してくださり、下手でも何でも好きなら続けてよいという自信を頂きました。

この大会を実施して、①「試合に出たいけれども、現在の自分の実力では難しい」「周りに柔道をする大人があまりいない」と思っているビギナーの女性(そしておそらく男性も)が潜在的に多数いると思われること、②柔道経験者と引き立て稽古的な試合をしたり、交流したりする機会は喜んでいただけるということ、そして、③「ビギナーに協力したい」という有志の柔道経験者が確実にいらっしゃり、ビギナーに投げられたり、ビギナーと交流したりすることで経験者自身もまた充実した時を過ごすことができること、が分かりました。

そして、このような機会が全国各地で催され、試合に参加することが難しいビギナーが「柔道を始めてよかった」と感じることができる環境が整ったら、より多くの人々が柔道のある豊かな生活を送ることができるようになると思いました。

この点、全日本柔道連盟は、2023年8月、誰もが柔道に親しめる環境を目指して長期育成指針を公表し、柔道の課題の一つとして「・・中高齢期の柔道実践者が参加しやすい生涯柔道の普及については,「形」以外にはほとんど検討されておらず,・・生涯にわたる多様な柔道への関わり方を具体的に提案する,新規の独創的な柔道普及プログラムを検討すべきである」と指摘しています。

本大会は、引き立て稽古的な試合の機会を作ることによって、ビギナーと経験者が交流できる「社交の場」を創出したと言えますが、これは「中高齢期の柔道実践者が参加しやすい生涯柔道の普及」に向けた「新規の独創的な柔道普及プログラム」としての可能性があると思います。この取組みが柔道普及に取り組む皆様の参考になったら幸いです(文責:judo3.0マガジン編集部:酒井)。

主催:NPO法人judo3.0 東京学芸大学畳上ラボ
主管:ビギナー大人女子親善柔道大会実行委員会
飯田純子 五十嵐茜 池田希 石川公教 井田亜紀子 生方純 川原愛子 川原輝子 川原久乃 川戸円 菅野裕之 金正嘉彦 久保田浩史 栗田愛弓 酒井重義 佐藤鷹史 白川美和 染井紀子 竹熊カツマタ麻子 土屋千春 中島恵 花田愛 吹田京子 藤原修一 堀資雄 森脇保彦 柳谷弘子 渡辺拓実
協力:埼玉県女子柔道振興委員会 認定NPO法人JUDOs

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