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今なぜ知的障がい者柔道が熱いのか?辻和也氏(わらしべ会)講義レポート

2019年3月3日(日)、judo3.0オンライン講座「今なぜ知的障がい者柔道が熱いのか?世界の流れとスペシャルオリンピックス 」にて辻和也氏(社会福祉法人わらしべ会事務長)が講義されました。以下、その講義の概要です(judo3.0事務局が作成)。あくまで概要ですので、当日の講義の詳細は末尾にあるムービーをご覧ください。

世界の流れと日本の動き

社会福祉法人わらしべ会(大阪枚方市)は、1970年代、脳性麻痺のお子さんへの治療を行っていた村井医師が運営していた少年柔道教室に参加させたことがきっかけ。柔道を取り入れた結果、体力の向上、対人関係の構築、社会参加にいい、ということがわかり、柔道を取り入れてきた。

1981年、大阪府枚方市に福祉施設をつくり、以降、脳性麻痺や脳血管障害、高次脳機能障害などの利用者に対して、寝技を中心として柔道プログラムを提供してきた。その後、施設の利用者が50代、60代と高齢化し、施設の利用者の柔道プログラムへの参加は減っているが、2010年から就労支援をはじめ、比較的軽度の知的障害の利用者が増えてきてきたので、彼ら彼女らへの柔道教室を始めている。わらしべ会として、1998年、イタリア・ベネチアの障がい者柔道大会に、2000年、ドイツの障がい者柔道大会に参加しており、当時から、ヨーロッパは知的障がい者柔道が盛んだということは把握していたが、それ以降につながる展開は実践できなかった。

2015年7月、アメリカ・ロサンゼルスで開催されていたスペシャルオリンピックス世界大会へ視察に行った。スペシャルオリンピックスは知的障がい者のオリンピックといわれ、このとき、競技種目が26、参加国が177カ国、柔道も競技種目として含まれており、柔道は24カ国、105名の選手が参加していた。日本は現在に至るまで参加できていない。スペシャルオリンピックスはオリンピックと同じ、4年に1回の開催であり、次回は、2019年3月14日~12日、アラブ首長国連邦のアブダビで開催される。

2017年7月、全日本柔道連盟によって「知的障がい者柔道振興に向けた意見交換会」を開催された。そのとき、世界で知的障がい者の柔道を推進する組織は、スペシャルオリンピックスと、国際知的障がい者スポーツ連盟(INAS)などがあることを知った。その後、2017年9月、日本文化大学にて、日本初の知的障がい者柔道の全国大会が開催され、神奈川、大阪、広島の3都道府県から15名の選手が参加した。

2018年3月、全日本柔道連盟で「知的障がい者柔道振興部会」がつくられ、活動がはじまった。主な活動は、①全国大会の開催、②普及活動(柔道教室へ委員の派遣、機関紙でのプロモーションなど)、③国内の現状把握、④海外視察などである。

①の全国大会の開催については、2018年9月、全柔連主催の第1回全日本ID柔道選手権大会が開催され、男性26、女性6名、合計32名が参加した。②の普及活動については、全日本柔道連盟の機関紙「まいんど」に掲載されるなどした。その結果、支援学校の先生や、高校や大学の柔道部の先生などから、わらしべ会の柔道教室の視察の希望などの問い合わせなども増えている。③の現状把握については、2018年3月、それぞれのクラブにアンケートが送られ、全国にどのぐらいの知的障害を持つ方がいるのかの調査が行われた。④の海外視察については、2017年10月、オランダで開催された知的障がい者の柔道大会、2018年4月、同じくオランダで開催された知的障がい者の柔道大会、同年5月、ギリシャで開催された知的障がい者への柔道指導に関するセミナー、同年8月、ロンドンで開催された知的障がい者柔道大会を委員が視察し、大会の運営方法、試合のルール、参加者への対応などを学んでいる。

ヨーロッパとの比較とこれからの障がい者柔道

2017年10月のオランダの知的障がい者柔道大会を視察したが、日本と比較すると以下の点で異なる。

  • ①参加人数の違い:国際大会であり、13カ国、67クラブ、346名が参加している。開催地のオランダからは29クラブ、181名が参加。日本が2018年9月に開催した大会は32名であることからこの大会は日本の10倍の規模である。
  • ②障害の種類・程度の違い:日本は軽度の知的障がいが多いが、ヨーロッパは中度の方も多い。日本は知的障がい者だけだったが、ヨーロッパは脳性麻痺、脊髄損傷など車椅子の選手が参加している。
  • ③競技形式の違い:ヨーロッパは寝技だけの試合や、選手の障害に合わせたオリジナルの形をつくった形の試合を盛んに行っていた。

これからの日本の障がい者柔道の普及について考えると、運営形態として以下の5つが考えられる。

  • ①放課後等デイサービスなど障害福祉サービスとして(ex. 大阪の放課後等デイサービス「みらいキッズ塾」)
  • ②スペシャルオリンピックスの活動として
  • ③特別支援学校や通常の高校の柔道部として
  • ④インクルーシブな実践として(ex. 名古屋介護系柔道部)
  • ⑤一般な地域な道場にて

⑤の一般の地域の道場には大きな可能性がある。障害が重度の場合は難しいが、一般的な地域の道場に参加できる程度の軽度の障害で、運動したほうがいい人が地域にはたくさんいる。したがって、もし日本各地にある地域の道場で受け入れが進んだら、知的障がい者の柔道は大きく広がる。

それでは、改めて柔道にはどんな効果、可能性があるだろうか。柔道は福祉になりえるだろうか?

うまくいったケースがある。例えば、中年の男性で、長年、引きこもりだった方が、柔道教室への参加と就労支援をきっかけに、家を出れるようになり、仕事を見つけることができた。その方は黒帯を取るぐらい柔道に夢中になった。これは本人の社会参加・社会復帰のために柔道が活かされたケースである。

他方、家庭の基盤が弱いため、柔道を続けることができず、やめていくケースもあった。障がい者への柔道教室は、趣味で楽しくやってます、を超えて、地域社会が抱えている課題にどのように貢献できるのか、障害福祉として必要とされる柔道のありかたがこれからの課題であると考えている。

その後、以下のような講師と参加者による質疑応答が行われた。

  • ヨーロッパは、知的障がい者とそうではないかを明確に分ける。その点から日本とヨーロッパの違いが生まれている部分がある(参加者)。
  • 全国大会がつくられるなど取り組みは進んでいるが、全国大会に出るような強い選手でない地域の障がい者柔道については、どのように普及していったらいいのだろうか(講師)。
  • 障がいのある方が柔道できるようになった結果、どういう効果が生まれたのか。試合での勝敗以外の結果について、ケーススタディが必要。その一人ひとりの物語が広まったら、理解が進むのではないか(講師)
  • 一般論として、障害福祉は、単独では弱く、大きな問題、大きな組織と連携することで前に進んできた。例えば、「駅にエスカレーターをつける」という場合、「車いすの人のために」だけだと世の中は動かなかったが、「妊婦さんやベビーカーを押すお母さんのために」だと、子育て、という大きな問題(みんなの問題)となって、エスカレーターが設置される。しがって、障がい者柔道を広げていくうえでも、大きな問題、大きな組織と連携することが必要ではないか(講師)。
講師:辻和也氏

社会福祉福祉法人わらしべ会(大阪枚方市)で、長年、障がい者柔道教室を運営し、ヨーロッパの障がい者柔道を視察されるなど海外の障がい者柔道を研究。全日本柔道連盟知的障がい者柔道振興部会副部長

レポート作成

NPO法人judo3.0事務局(酒井)

講義ムービー(50分)

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