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柔道は畳の上だけでは終わらない。ポーランドを訪問して日本にはないものに気づいた。

目次
第1「ポーランドで柔道の先生をやってみる気はないかい?」
  • そしてポーランドへ
  • ポーランドという国
  • ポーランドの人の雰囲気
第2「すげぇよ。柔道って面白い。僕はまた柔道を続けるよ。」
  • 合宿地ヤストロベ
  • キャンプで指導した内容
  • ポーランドの子どもたちの特徴
第3 日本とポーランドの4つの違い
  1. 乱取りについての考え方の違い
  2. 事故防止のための国の関わり方の違い
  3. スポーツについての考え方の違い
  4. 柔道指導者の職業としての違い
第4 「あなたにとって、柔道とは何ですか?」
  • 合宿の終わり
  • アルトゥ-ル先生の言葉

※(3.0編集部より)本記事の末尾に、ポーランドで柔道をしたい方を募集するお知らせがございます。

第1「ポーランドで柔道の先生をやってみる気はないかい?」

2016年10月に行われた大阪国際親善柔道大会に出場した際、知り合いになったポーランド人のアントニーさんとの試合後の会話がすべての始まりだった。ひょんな繋がりから、2017年8月ポーランドに約2週間、トレーニングキャンプの特別講師として招待されることになった。

海外渡航経験は香港・マカオなどはあったが、それは旅行者としてであり、ましてやヨーロッパに行くのは初めてだった。また私は柔道選手としても大きな実績はなく、指導者としての経験はあっても、外国へ渡航して直接指導した経験はなかった。しかし、自分の価値観や人生観を変えるよい機会だと思い思い切ってチャレンジしようと決めた。

そしてポーランドへ

招待してくれたのはUKS柔道クラクフ代表のアルトゥール・クリス先生。やや小柄で筋肉質な身体、笑顔が素敵な方だ。

年齢は私と同じ34歳。現在はクラコウ体育大学で教鞭を取りながら子どもたちの指導に当たられている。家族は、奥さんのカテジーナさんと3歳の息子のブローネックの3人。後で知ったのだが、アルトゥール先生は元ポーランドの-60キロ級の代表選手であり、世界選手権の2~3位入賞者だった。奥さんのカテジーナさんもヨーロッパチャンピオンであり、3回オリンピックに出場したオリンピアンだった。またアルトゥールさんは奥さんのコーチとしても務め、代表選手団の一員としてつい最近まで活動されていたそうだ。

同じ仲間にはオリンピックチャンピオンで日本では総合格闘家としても活躍されたパウエル・ナストゥラ先生、同じく重量級の代表選手として活躍され現在は自分の道場ケイザ柔道の経営をされているアルトゥール・ケイザ先生などがおられ、皆さんも今回のトレーニングキャンプに参加されることになった。

余談だが、ポーランドではアルトゥールと言う名前はかなりメジャーな名前らしく日本で言う“太郎”などに当たる名前らしい。

飛行機に搭乗し、長い旅が始まった。日本→中国→ドイツ→ポーランドのクラコウの順に辿り着いた。実は、往路で出発に8時間以上の遅れが出たり、預けた荷物が届かなかったりとトラブルが続いたが、現地でアルトゥール先生がサポートしてくださり、なんとかやっていくことができた。本当に親切にしていただいた。(後日合宿地に荷物は届いた。)

ポーランドという国

ポーランドの都市Krokow (クラコウ又はクラクフと読む)のバリツェ空港に着いた。現地に到着したのは深夜だったので、ホテルで一泊し、次の日は合宿に必要なものを近くの大型ショッピングセンターで買い、その後は、アルトゥール先生家族と友人の方々と一緒に、クラクフを観光させてもらった。

クラクフは人口約75万人で、ポーランドでは大きな町の一つらしい。町の第一印象は落ち着いて静かな感じ。市街地郊外の道路は広く片道3車線の大きな道。中心地は2車線だが渋滞はほとんどない。車も日本車は人気でトヨタ、ホンダ、スバルなどの車が走っている。ほとんどが普通自動車か大型自動車で軽自動車は走っていない。

郊外~中心地には大型ショッピングセンターなどがあり、中心地にいけば映画館、美術館、ビスワ川という大きな川をつなぐ美しい橋、歴史的な雰囲気を醸し出す建物が立ち並ぶ。日本美術技術博物館マンガ館などがあり親日感を漂わせる。ちなみに、僕が宿泊した空港近くのホテルにも東京時刻を刻む時計があった。(電池切れで止まっていたが。(笑))

最中心地は城や石畳で作られた道や広場があり、たくさんのひとで賑わっていた。城を中心に高い城壁に囲まれた城郭都市としてそのままの姿を残す、歴史を感じる場所で観光スポットなっているようだ。郊外にアジア人の姿はほとんど見当たらないが、中心地にはアジア人の観光客やそれ以外の国の方々がポツポツいる。先入観を持たずに肌で感じたかったので事前に敢えて詳しく勉強をせずに行ったが、古都で歴史のある町という印象だった。日本で言えば、京都のイメージである。美しくて住みやすそうなイメージを持った。

ポーランドの都市のひとつ、クラクフの街並み

ポーランドの人の雰囲気

人の雰囲気は町と同じく静かな感じ。身長が高い。女性もかなり高く170cmを超える方がたくさんいた。(私は172cm)英語は割と通じる人が多く、わからないことを聞くと基本的に快く対応してくれる。

到着してから次の日、ロストラゲッジした中身の荷物を補充するための買い物をホテル近くに大型ショッピングセンターで行ったが、その際様々な店舗のスタッフやレジカウンターの方に、
「あなた日本人?」
「私、日本のアニメーションが大好きなの。」
「日本の料理はおいしいよね。」
「ポーランドへは何しに来たの?」(以上、英語にて)
「コンニチハ!」
「アリガト!」
など言葉をもらった。郊外では日本人はレアらしく、声を掛けたらしい。

前項でも書いたが、この街には日本美術技術博物館マンガ館などがあり、テレビではアニメーションが放送されている。後に合宿所で、小さい子どもにはイナズマイレブン、ポケットモンスターなどが人気で、20代30代ではドラゴンボールや幽遊白書などが人気だという話を聞いた。とにかく親日派。それは最初から最後まで変わらなかった。非常に好感が持てた。

ポーランドの物価と食品

衣類や燃料などは日本とあまり変わらないが、食品についてはおよそ3分の1程度の値段である。特に肉が安い。こちらの人はよくハムを食べるようだ。ショッピングセンターなどでは日本でも売られているような米、麦、パスタなどの食品をいろいろ見つけた。しかしながら水産物、特に鮮魚はあまり見当たらず、この国の食生活は日本と違うことを実感した。クラクフや合宿地ヤストロベなどではいろいろなポーランド料理を食べさせてもらった。僕の口には結構合い、美味しく感じた。

ポーランドのショッピングセンターとスーパーの様子

第2「すげぇよ。柔道って面白い。僕はまた柔道を続けるよ。」

合宿地ヤストロベ

クラクフに到着してから2日後の早朝、合宿地に移動することになった。
場所は“ヤストロベ”。クラクフからおよそ7~800kmの位置にあるところらしい。高速道路やのどかな農業地帯を約7~8時間走行し、森林地帯についた。湖があった。どうやらこの辺一体は国立公園に指定されているようだ。

ちなみに市街地もあり、様々な店や大小の車が行き交う。合宿地は市街地から少し郊外にあり、湖のほとりのイベント会場を使用するようだ。そこにはレセプションや小さな売店、サウナなどがある宿泊施設、ログハウス、小屋、小さな教会、BBQ施設、テニスコート、バスケットコート、人工芝のピッチ、そして湖近くにはビーチやレストラン・バーなどがある。

特筆すべきは畳マットスペースだ。鉄製で骨組みされたものでテントを作り全天候型の畳マットスペースが2棟建ててあった。ちなみに小さな教会もマットが敷いてあり小さな練習スペースとして使われていた。到着時には、すでにほかの柔道クラブやマーシャルアーツクラブなどが使っており稽古をしていた。

ヤストロベの合宿地の様子。上の写真は、アトランタ五輪95kg級金メダリストのパウエル・ナストゥラ先生とのツーショット!

僕たちが到着してまもなく、前述した先生方やコーチや子どもたちが集まった。夕方にはログハウスの部屋割を行い、僕はUKS柔道クラクフのコーチであるミハエルとシモン、ケイザ柔道のダニエルらと同じ部屋になった。数時間後、他団体とのミーティングと指導者会議を終えたアルトゥール先生が、部屋に来て、合宿プランについて話し合った。

「マットの時間のそれぞれの練習メニューはこんな感じでお願いしたい。しかし内容に関してはすべてタケ(私)の思い通りにやって欲しい。私たちやアスリートに日本人の柔道、精神や良い動きを教えて欲しい。」

とアルトゥール先生にお願いされた。ポーランドではどんな指導をされているのか気になっていたし、正直すべての指導とは思わず驚いたが、これもチャンスと思い快諾した。

ちなみにUKS柔道クラクフの練習は基本一日三部練習。うちマットを使えるのが、大マット会場 ①07:30~08:30、 ②11:30~13:30、小マット会場 ③17:15~18:45となっていた。

10歳~14歳の高学年グループが①と②の柔道練習、③の時間が体力トレーニング。10歳以下の低学年グループが①はなし、②が体力トレーニング、③は柔道練習。と言うものである。高学年の①は寝技の技術練習、②は立技の技術練習。低学年の③は寝技、立技の技術練習・・・という感じである。

練習メニューをみて

  • 乱取りが週1回しかなく少ないこと
  • 運動遊びの時間とカヌーがトレーニングの中に組み込まれていたこと

日本との違いといい意味で疑問を感じた。そして実際にトレーニングは始まった。

キャンプで指導した内容

最初は自己紹介を済ませ、柔道の意味や目的など話し、その後、基本動作や受け身、それぞれの技術を見させてもらった。何となくはできているが、完全にできているものはおらず、また指導員も基本動作や基礎運動その意味と詳細を知らなかったようだったので、基本動作と基礎運動の習得と理解から教えていくことに決めた。

具体的には、基礎運動の意味の理解から、立技では、立ち方、崩しの説明(重心点、基底面、安定領域等)、足捌き、体捌き、投げの理合(崩し・作り・掛け・投げ・極め)等の理解と習得をメインに一週間、組み方→体捌き→自分の得意技での投げへのかたち作りをメインに僕の得意技を教え、最後に戦略という流れで一週間という風にプランを組んで実行した。寝技に関しては基本運動の意味と理解、下からの攻め方、上からの攻め方、亀返しなどを計画して実行した。

ポーランドの子どもたちの特徴

こちらの子どもはとにかくわかりやすい。表情にすぐ出る上、すぐにできることを望む。力を抜くことが難しく、微妙な力のコントロールが苦手。イメージで言えばアナログかデジタルと言えばわかりやすい。日本人は微妙なニュアンスが伝わりやすいアナログ、海外の人間ははっきりしてわかりやすいデジタル。最初は戸惑ったが、逆を言えばこちらの指導が彼らのイメージの的を射れば理解は容易いと思い、英語で表現できないニュアンスの言葉は、自然物や音、動きで表現した。自分が日本人であることを感じた貴重な瞬間だった。

子どもたちは、初めは戸惑いながらも、徐々に新しい感覚を身体で頭と理解してきた。自分の体重を利用して相手を崩したり、或いは体捌きなどの中で技を繰り出したりする者が増え、中には無理なく技を交換し合う乱取を行う者も最終的には見られるようになった。毎回のクラスが終わる度、お礼を言ってくれる生徒が増えた。

「今日のクラスは、とてもよかった。僕は初めてあんな経験をしたよ、タケ。」

「僕は今まで怪我をして柔道から離れていたんだけど、このキャンプに来て良かった。日本の柔道は僕に合っていると思う。僕は力が弱いんだけど、言われた通りにやったら本当にできたんだよ。相手の反応や自分の動き、体重を利用して崩せば本当に相手を投げることができるんだね。すげぇよ。柔道って面白い。僕はまた柔道を続けるよ。ありがとう。」

彼らの母国語はポーランド語だが、学校で習っている英語で必死に伝えてくれた。子どもたちは真剣に取り組み、日を追うごとに変わって行った。

第3 日本とポーランドの4つの違い

1. 乱取りについての考え方の違い

さて、兼ねて疑問にしていた乱取練習の少なさについてだ。私は小学校時代から町道場で柔道を始めたが、受け身などをある程度習得した後は、乱取を毎回行っていた記憶がある。成長するにつけ乱取に割く時間は増えていくのが日本だが、海外、特にポーランドやヨーロッパは違うようだ。余談だが、アルトゥール先生や奥さんのカテジーナさんも日本の某大学にナチョナルチームの代表と初めて合宿に参加されたときは、あまりの乱取数、時間の多さに驚いたそうだ。

事前に、毎年オランダに柔道指導に行かれ、お世話になっている和歌山大学柔道部部長の矢野先生からも「海外は乱取の量が少ないから、びっくりすると思うよ。」と言われていたのでそれ用のプランを立ててここに渡ってきたが、やはり文化の違いを感じざるを得なかった。しかし、乱取りが少ない理由をさらっとアルトゥールに質問すると“なるほど”という答えが返ってきた。

「乱取は大切だしアスリートも乱取が好きだ。しかし、ハードな乱取りはモチベーションが下がり、疲労がたまれば怪我などのリスクもあがる。私たちは子どもたちを預かっている以上、責任を持って育てなければならない。たくさん乱取をすることは少年アスリートに取ってあまりメリットがないと私は考えている。トップレベルシニアになってからでも遅くはない。」

「モチベーションを保ちながら、何の機能を向上させるべきなのか?を考えてトレーニングは行うべきだと私は思う。つまり目的によってトレーニングは変えるべきだということだ。心肺機能や下半身を鍛えたければジャンプ、ランニングやクロスカントリー。上半身の動きや筋力はカヌートレーニング。調整力や反応力を鍛えるならサッカーやバレーなどの球技。技術的な練習をタタミで。方法はいろいろある。遊びもその一つだよ。総じて私はアスリートを多面的に育てて行くべきだと思っている。だから、タケ。君が伝える日本の柔道が、私たちのアスリートに取ってどれだけ有意義なことか理解できるだろう。私たち大人にとってもそれは同じことなんだ。よろしく頼むよ。」

納得以外の言葉は見当たらなかった。私も同じような考え方をしていたのだが、乱取はすべきトレーニングとして傾向が日本では普通である。しかしヨーロッパでは“なぜそのトレーニングを行うのか?” つまり目的とその時間、費用対効果を常に考えている。合理的なのだ。スポーツとしての考え方が進んでおり、ヨーロッパでの重大事故が少ない理由も納得できた。日本人も見習うべき所だと正直思ったし、本来の柔道の精力善用の精神にも相通じるものを感じた。嘉納先生が西洋の文化を取り入れた背景を感じることができたような気がした。

動画:本キャンプでのトレーニングの様子(ケイザ柔道クラブFacebookページより)

Jastrowie 2017

Jastrowie 2017!!!Filmik, który przedstawia co dokładnie działo się na zgrupowaniu 😀

Kejza Team Rybnikさんの投稿 2017年9月2日(土)

2. 事故防止のための国の関わり方の違い

キャンプ中、アルトゥ-ル先生のログハウス前に生徒の名簿と何やら証明書のようなものを張っていることに気がついた。また休憩時間になるとノートパソコンを開き、何かを作っていた。気になったのでそれらについて質問をすると、

「ああ、これかい?もうすぐ国の検査員が、キャンプが適正なプログラムで行われているのか確認しに来るんだよ。ほら、アスリートと我々コーチの名前や年齢、そしてキャンプのプログラムが張ってあるだろ?ここで、“いつ”“誰が”“誰を”“何の目的で”“何をしているのか”表向きに掲示してあるのさ。他のチーム責任者のログハウスの前にも掲示してあるさ。この国では、国全体で、子どもたちが事故無く、安全にスポーツやキャンプが行えるように管理しているんだよ。私たちも子どもたちを保護者から預かっているわけだから事故無く無事にトレーニングを終えられるよう、無理のないトレーニングを組まなくてはいけないんだ。」

という答えをいただいた。

この取り組みは単純にすばらしいなと思った。国がキャンプに検査、視察に来るなんてことは、日本ではあまり聞いたことはなく、寧ろ指導者の計画に任せて行われるイメージが強い。決して指導者任せにするのでは無く、国全体で行うことで、指導者による行き過ぎた指導に抑制を掛け、また無資格者が行うことで発生する事故などを未然に防ぐことができるこの取り組みは、私たちも大いに学ぶべきであるのではなかろうかと思った。ここにも重大な事故を防ぐためのヒントを見つけることができた。

実際にキャンプ場に国の検査員が来たときにアルトゥ-ル先生は対談、説明し、私もその現場に同席させてもらった。日本ではあまり体験できない貴重な体験だった。

3. スポーツについての考え方の違い

検査官との話の後、ポーランドの社会や子どもたちとスポーツの関係についてコーチ陣に訪ねてみた。聞くと、基本的にスポーツに対しての考え方や捉え方が日本と違う。

一つのスポーツに専心して行うことはせず、季節や場所、また自ら進んで様々なスポーツを行うということらしい。柔道はあくまでその中の一つであると言う感覚だ。実際にアスリートの中にも、水泳とサッカーと柔道など掛け持ちしている者がほとんどだった。(ちなみに、子どもたちの運動神経、特にサッカーのレベルはかなり高かった。)

ポーランドの子どもたちは学校が終わると、そのまますぐにスポーツや習い事に向かう。コーチ曰く、毎日1つか2つ習い事を習わせるのがポーランドの習慣だそうだ。子どもたちは非常に忙しい毎日を送っているようだが、これにも訳がある。

ポーランド人は非常に忙しく、朝から晩まで働き詰めの人が珍しくないらしい。コーチの1人も昼は小学校の先生をし、夜は柔道の先生をしている。物価が安い分、給料も当然少ないのでよい暮らしをするにはそれなりに働かねばならず、子どもがいる両親も自分が働いている時間は子どもに使えないので、その時間の有効活用する方法として習い事を習わせるらしい。

スポーツは友達ができるだけでなく、心身を鍛え、子どもの成長には必要不可欠なのを知っている人が多いため習わせるのだそうだ。ちなみ柔道はサッカー、バレーボール等の人気スポーツに続いて割と認知度は高く、どちらかと言えばメジャーなスポーツの方らしい。何にしろ、スポーツが社会の中で、特に子どもたちの教育するツールとして大きな価値を持っていることがわかった。

4. 柔道指導者の職業としての違い

ポーランドではスポーツスクールはビジネスとして成り立っており、当然柔道教室・クラブもビジネスとして成り立っている。日本では武道、特に柔道の町道場、教室、クラブ等のインストラクターを職業として生計を立てる、あるいは金銭が発生する仕事として柔道の先生をされている方は、筆者の知っている中では学校関係者ぐらいしかない。道場経営者で生計を立てている方は片手で数える程しか記憶にない。町道場の先生はほぼボラティアが現状だと認識している。

しかし、こちらでは歴とした職業として柔道インストラクターは成り立っているようである。ちなみにUKSクラコウ柔道チーム、ケイザ柔道のコーチの皆さんは、それだけで生計を立てるのではなく、午前中や空いた時間を使って他の仕事をし、午後にクラブ生のクラスをもって収入を得ているようである。(理由は前述)

ちなみに生徒の入会が増えればその分、収入が増えるのはもちろんのことだが、もし何らかの試合で自分の道場生が入賞すれば、その市町村から賞与が与えられ、クラブが成長してゆくとコーチが教えてくれた。顧客を子どもと保護者と考え、子どもが楽しく、且つ安全に続けることができ、なおかつ保護者のニーズに対応できる環境作りをポーランドの柔道クラブは行っていた。

実際に行っていたことは以下

  • 市内中心地は地価が高いので、郊外などのベッドタウンに道場を建てたこと
    初期投資が安く済み、顧客である子どもと保護者が近くにいるため、送迎がしやすい。
  • 多数の道場をそれぞれ別の場所で経営。総顧客数が増えるため、よいタレントを持った子どもが集まる可能性が高くなる。
  • 道場やキャンプなどで柔道以外のスポーツや運動を取り入れる様々な運動、スキーやカヌーなどの多様な運動をすることでアスリートを多面的に育てる。またモチベーションを低下させない。
  • 現役オリンピアンやトップレベル選手を有するクラブであること。キャンペーン効果に絶大な効果を発揮するだけでなく、将来の展望を子どもたちに与える。
  • それぞれのレベルに応じた指導を行うこと

・・・等々、なかなか勉強になった。

第4 「あなたにとって、柔道とは何ですか?」

合宿の終わり

見るもの、聞くものがすべて新鮮だった合宿も終わりにさしかかり、最後はコーチ陣がBBQパーティーを開いてくれた。合宿における優秀選手が発表され、コーチからの言葉が話された後、中学生を含む高学年組の子どもたちが私にサインを願ってきた。最後には自分たちにはあげるものがこれしかないと、メッセージ入りの帯をプレゼントしてくれた。

涙が出た。

どんなところに行っても情熱は伝わるのだと感じた瞬間だった。余談ではあるが、サインを書いたが故、その後寝るまで低学年を含む合宿者全員にサインをした事はいい思い出だ。日本人の柔道家がリスペクトされていることを本当に感謝した。

合宿は、一人のけが人を出すことなく、全員が無事メニューを終了した。

指導者の方々、筆者の左側 アルトゥール・クリス先生、2列目最右翼 パウエル・ナストゥラ先生、3列目最右翼 アルトゥール・ケイザ先生、アルトゥール先生の右側 シモン・ウィジンスキー コーチ、最左翼の最後方 ダニエル・ケイザ コーチ

 

右列 前から3人目 ミハエル・オレクセイ コーチ、左列 最後方 カテジナ・クリス先生

アルトゥ-ル先生の言葉

ポーランドを去る日、先生に「あなたにとって、柔道とは何ですか?」と質問してみた。先生は、

「柔道は、私にとって人生そのものだ。柔道は、喜び、悲しみ、友達、ライバル、仕事、妻などをあらゆるものを私に与えてくれた。柔道は畳の上だけでは決して終わらない。本当に素晴らしいものと私は思っているよ。」

アルトゥ-ル先生の言葉は今、彼の道場を表す言葉として道場HPに載せられている。

松原 猛真(まつばら たけまさ)

1982年生まれ。天理大学 国際文化学部卒業、講道館柔道四段、ブラジリアン柔術茶帯、和歌山大学柔道部コーチ。和歌山県の社会人柔道チーム “和歌山柔栄会”、総合格闘技道場”G-FREE”に所属し、競技選手と指導者として活動している。

judo3.0よりお知らせ:ポーランドに行きたい方を募集!!

本記事に掲載されたUKS柔道クラクフ代表のアルトゥール・クリス先生そして生徒のみなさまが、今年の夏(2018年7月)、和歌山に10日程度滞在し、稽古及び国際柔道交流をします(協力:由良町柔道スポーツ少年団)。また、その後は、希望者を募り、日本からポーランドに行く予定です(時期等は検討中)。「ポーランドで柔道をしてみたい!」という方、詳細をご案内させていただきますので、こちらのお問い合わせからご連絡いただけたら幸甚です。

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