4つの先進事例と2020年の先にあるもの(第2回フォーラムレポート4)
理論や意見も大切だが、私たちは何よりも「やってみる」ことから多くを学ぶことができる。フォーラムでは、以下の4つの事例が共有された。
- 「バリ島柔道プチ留学」佐々木 洋賢氏 土曜柔道会
- 「インクルーシブ柔道教育の歩み」長野 敏秀氏 ユニバーサル柔道アカデミー
- 「紀柔館がいま取り組んでいること」腹巻 宏一氏 柔道学習塾 紀柔館
- 「第1回Japan Judo3.0 Festival。そして柔道は2020年の先に何を構想するか?」酒井 重義氏 judo3.0
「バリ島柔道プチ留学」佐々木 洋賢氏 土曜柔道会
今年3月、兵庫県の土曜柔道会の小学生、中学生22名が海を渡り、インドネシア・バリ島の仙石道場にて5泊6日間のJUDOプチ留学をおこなった。少年柔道クラブの先生が多数の生徒を海外につれていくという事例は滅多にない。そこで、数分のビデオでそのプチ留学の様子を共有したのち、インターネットビデオ通話でライブ中継しながら、土曜柔道会代表の佐々木洋賢先生からお話を伺った。
- (きっかけ):昔、バックパッカーとしてヨーロッパ旅行をしたとき、柔道を通じて海外の方々と親しくなれた。この時、日本いると「なんで柔道なんかやってるの?」という否定的な見方をされることが多かったのですが、海外では逆で「日本人+柔道=素晴らしい!」ということを知った。だから、30年近く前から生徒達に「将来仕事で海外の人達と交わる機会が多くなると思うがきっと柔道が役に立つ」「海外出張の時は、必ず柔道着を持って行くようにと話をしていた」
- (感想):バリの子供たちとの稽古、小学校での柔道のデモンストレーション、親善試合、観光、海水浴、事前の研修、事後の研修、プチリュウガク中の毎日の振り返りミーティング、と盛沢山な内容でした。子供達は終始ハイテンションだった。私は、夜毎、ビールを飲みながら仙石先生のお話を聞き、仙石先生のお人柄に触れることができたことは本当に素晴らしい経験でした。それは生徒達にとってもそうであったと思います。
「インクルーシブ柔道教育の歩み」長野敏秀氏 ユニバーサル柔道アカデミー
昨年9月に実施した第1回フォーラムJUDO3.0。そこではインクルーシブ柔道の可能性が愛媛のユニバーサル柔道アカデミー代表の長野敏秀先生から語られたが、以下のような報告が行われ、その半年後の現在、そのインクルーシブ柔道教育の活動の輪が広がっている、というお話があった。
- 「ユニバーサル柔道島根支部」ができた
- 大阪府枚方市の社会福祉法人わらしべ会における障害のある方々との柔道教室の取り組みについて(辻和也さま)
- 発達障害と柔道などに関する情報集約・発信のためのfacebookグループ「JUDO発達凸凹クラブ」ができ、メンバーが130人を超えた。
「紀柔館がいま取り組んでいること」腹巻 宏一氏 柔道学習塾 紀柔館
柔道教育最前線でいま何が起きているのか? 和歌山の柔道学習塾 紀柔館の腹巻宏一先生にインタビューさせていただき、1時間超のインタビューであったが、10分程度にビデオ講演として編集し、当日はビデオでの講演が行われた。
- 試合に勝つためのプログラムではなく、「考える力」を向上させるプログラムに切り替えている
- 賛否両論あり、以前の結果を出すための稽古がいい、という保護者もいれば、以前であれば試合に勝てずに辞めていった可能性の高い生徒が柔道を継続している、という側面もある
- その指導方針の変化の背景は社会における価値観の多様化である。みんなで歯を食いしばって頑張ればみんなよくなる、という社会ではなくなった。
- これからの柔道教育に必要なことは、異なる分野(空手、剣道、合気道ほか武道にかぎらず)から学ぶことだと思う。
当日放映したビデオ講演
「第1回Japan Judo3.0 Festival」酒井 重義氏 judo3.0
「オリンピックのおもてなしは柔道で!」。日本の柔道クラブで世界の柔道青少年をおもてなしし、オリンピックレガシーとして地域の柔道クラブの国際化を進めていこうというプロジェクト、その記念すべき第1回が今年3月に、広島、山口、愛知、静岡で実施された。その活動の様子や実際にやってみた感想などが共有された。
- 練習がとても楽しかった。人を「知る」楽しさがたくさんあり、子供たちの目がとてもイキイキしていた。
- 普段の強化練習は「どのチームが強いのか?」という発想にどうしてもなるが、これとは全く異なり、海外の人々がくることで「つながる」「お互いに深く理解する」練習になり、学びが多く、楽しかった。
- このプロジェクトを象徴する言葉は「対話」だった。異なるバックグランドを持つ人々が、柔道、食事、話し合いなどを通じて対話をしていく。
- グローバル化や相互依存が進み、異なる価値観を持つ人々が協働する機会、対立する機会が増えている。この異質な集団と交わる力を育む教育手法として柔道は有効であることを実感した。
第1回Japan Judo3.0 Festivalの様子(ムービー)
「柔道は2020年の先に何を構想するか?」酒井重義氏 judo3.0
それでは、私たちは、2020年まで何をしたらいいだろうか?そして、2020年以降、何をしたらいいだろうか?judo3.0の酒井重義氏から未来の柔道教育の構想が語られた。
これからの社会で必要とされる柔道教育とは何か?judo3.0が提示するこれからの柔道教育の構想は、「異質な相手と交流する力を育む教育」としての柔道である。社会のグローバル化は急速に進み、相互依存を深め、異なるバックグラウンドを持つ人々が交流する機会、そして、対立する機会が急激に増加している。いま、異なるバックグラウンドをもつ人々と共生する教育の必要性が日増しに高まっており、世界的に教育の目標が「異質な相手と交流する力」を育むことにシフトしているが、社会はいまだ有効な教育手法を見出していないのが現状である。一部の柔道家が昔から知り実践してきたことだが、実は、柔道には、「異質な相手と交流する力を育む教育」として効果がある。
しかし、残念ながら、現在、柔道は「異質な相手と交流する力を育む教育」としてまったく活用されていない。例えば、現在、約9000あるという日本の地域の柔道クラブ(部活も含める)に海外の柔道家がくる機会はほとんどない(ごく一部の著名な道場や強豪校には機会がある)
そこで、judo3.0(「海を渡って柔道をしたら世界が変わった」実行委員会)は、2年半から、「異質な相手と交流する力を育む教育」として柔道を構想し、これまで55名の日本の青少年・大人を海外に派遣してきたが、2020年にむけた新しいプロジェクトを開始した。それが、「東京オリンピックのおもてなしは柔道で」を掛け声として、日本の地域の柔道クラブに海外の柔道家をお招きし、柔道交流をするプロジェクトである。目標は1万人。その記念すべき第1回が今年3月に実施された。
”第1回Japan Judo3.0 Festival” 通称”SAKURAキャンプ”。参加者は2ヵ国から3名、広島・山口・愛知・静岡のチームが中心となって実施、2週間、国内14道場を訪問、300人~400人の日本の柔道青少年と交流した。実際に実施した感想は、先に報告したとおり。
- 練習がとても楽しかった。人を「知る」楽しさがたくさんあり、子供たちの目がとてもイキイキしていた。
- 普段の強化練習は「どのチームが強いのか?」という発想にどうしてもなるが、これとは全く異なり、海外の人々がくることで「つながる」「お互いに深く理解する」練習になり、学びが多く、楽しかった。
- このプロジェクトを象徴する言葉は「対話」だった。異なるバックグランドを持つ人々が、柔道、食事、話し合いなどを通じて対話をしていく。
- グローバル化や相互依存が進み、異なる価値観を持つ人々が協働する機会、対立する機会が増えている。この異質な集団と交わる力を育む教育手法として柔道は有効であることを実感した。
この海外の柔道家を招いた国際柔道キャンプを定期的に開催していくことで、参加者・参加国、日本の受け入れ地域を広げていく。そうしたら、日本のどの地域の柔道クラブにいても、海外の人々と柔道交流ができるになる。つまり、地域の柔道クラブは、異質な相手と交流する力を育む教育機関として、国際教育機関として進化するのである。以上から、2020年の東京オリンピックのレガシーとは、「地域の柔道クラブの国際教育機関化」である。これからも地域の柔道クラブでの受け入れるプロジェクトを実施していくが、現在、各地に、北海道・埼玉・三重・和歌山・広島(東広島/三次)・島根・愛媛・静岡・愛知・山口などに中核となる仲間がいる。
しかし、課題は山積だ。
- どうやって海外の柔道家にプロモーションするのか?
- 来たいと言ってくださった人がきちんとした柔道家か、どのように確認するのか?
- いいプログラムをどうやって作るか?
- 他地域にどのようにひろげていくのか。
- 活動資金をどのように集めるのか?
もっともただとにかく実行することで前に進むことができる。一緒に実施する、又は応援してくださる仲間を引き続き、探していく。
さて、2020年以降はどうするか?新しい学校づくりをはじめる。異質な相手と交流する力を育むことを中核とした世界を巡りながら学ぶ学校(知育はオンライン)を各国に一校つづつくっていくこの新しい学校の詳細は省略するが、すでに先例がある。3年前にアメリカにできた「ミネルバ大学」がとても参考になる。
その結果、世界各国の地域の柔道クラブが世界の子供達の教室となり、次世代の新しい公教育が生まれる。これができたら自他共栄の社会にむけて大きく進むだろう。柔道は、殺傷術を教育手法に変換したjudo1.0、オリピックに象徴される競技スポーツとして世界に広げたjudo2.0、この次のバージョンに変化するだろう。judo3.0は「つながる」が中核的価値になる。
東京オリンピックのレガシーとして、「地域の柔道クラブの国際教育機関化」を掲げたが、結局のところ、その意味するところは、この構想に共感する仲間が集まり、チームをつくり、それぞれのもてる力を結集することである。judo3.0はこれからNPO法人化し、一緒に活動する人、会費や寄付で応援する人、そのほかその人ができる支援をする人のチームを作る。レガシーとは結局のところ「仲間」ができることだと思う。
当日のライブ映像