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チリで柔道を指導して-横山智恵氏(JICA青年海外協力隊)

2024/4/12(金)の3.0オンラインカフェは、JICA青年海外協力隊の柔道隊員としてチリで柔道指導をされている横山智恵先生にお越しいただき、お話を伺いました。

目次
  • 自己紹介
  • 海外に行きたい理由
  • JICA青年海外協力隊
  • チリ・コロンボ州・ラセレナ
  • 豊星柔道クラブ・グスタボ先生
  • 活動内容
  • 日本との違い
  • 今後について
動画
チリで柔道を指導して-横山智恵氏(青年海外協力隊)

自己紹介

まず自己紹介からさせていただきます。名前は横山智恵と申します。現在、JICA青年海外協力隊の隊員としてチリで活動しています。出身は、東京都の青梅市です。23区外の多摩地区の方で、生まれて4歳の頃に、父と兄の影響で柔道を始めました。そこから幼稚園の頃に引っ越して、東京の武蔵野市にある松前柔道塾に通い始め、中学校まで松前柔道塾で柔道をしていました。高校は東海大学付属高輪台高校に進み、その後、東海大学体育学部競技スポーツ学科に入学、そして柔道部に入部し、選手兼主務として柔道をしていました。

大学では、保健体育と英語の中学校と高校の教員免許を取得しました。大学4年生の卒業時にはすでに「海外に行きたい」と思っていましたが、ちょうど大学4年生になった3月にコロナが流行し、緊急事態宣言が出されるなど、海外への渡航が難しくなったため、一旦、海外に行くことを諦め、その間、日本で働くことに決めました。

日本で働くとなれば教員をやりたいと思っており、監督に相談したところ柔道部の部長中西先生から「ちょうど東京で柔道を教えることができる女性教員を募集している学校がある」とのお話をいただきました。そのご縁があって、東京都東村山市にある明治学院中学校・東村山高等学校の保健体育科講師として2年間務めさせていただきました。講師として勤務していましたが、柔道部のコーチも勤めさせていただきました。

勤めてから2年目にはコロナもおさまってきて、海外からの観光客も日本に来るようになったり、様々な面で緩和してきたので「そろそろ海外に行こう」と思いました。最初はJICAで行くことは考えていませんでしたが、JICAに行くメリットの方が大きいと思ったり、柔道指導者の要請があり必要とされていたことから、JICAに応募することにしました。まだ2年間しか日本での柔道指導に当たっていなかったため、指導者として未熟な部分はありましたが、チリに行ってみると、この日本で働いた2年間の経験が生かされているのを感じることができました。

海外に行きたい理由

なぜそもそも私が海外に行きたいと思ったのかを考えると、1番の理由は、幼少期から中学生まで通っていた松前柔道塾での経験が大きいと感じています。東海大学自体が国際交流に前向きで、留学生を受け入れたりしていましたし、松前柔道塾でも海外のチームと交流することがありました。そこで、私自身も同い年ぐらいの海外の方々と一緒に柔道を組んだりして練習をしたことがあります。もちろん、当時は英語が全然話せませんでしたが、柔道を通してコミュニケーションを取ることができ、お互いの気持ちを理解したり、思いやりの心を感じ取ることができました。うまく言葉で表現できないのですが、柔道には不思議なものがあり、スポーツ全体にそういったものがあると思います。そういった経験から、もっともっと色々なことを吸収したいと思うようになり、この日本の柔道をもっと海外に広げたいという思いを持つようになりました。

このように、海外の方々との出会いがきっかけとなりましたが、実際に海外で柔道指導をしていた先生方や先輩方、周りの人々の影響も大きかったです。シンプルにその時は「かっこいい」と思い、私もそういった人になりたいと思うようになり、将来の目標が見えてきました。そこから、世界中の柔道が好きな人たちと繋がり、自らが海外に渡って柔道指導をしたいという思いが強くなりました。

JICA青年海外協力隊

そして、JICA青年海外協力隊についてですが、ご存知の方もいらっしゃると思いますが、JICAのボランティア事業は、日本政府のODA予算によって独立行政法人国際協力機構が実施する事業です。開発途上国からの要請に基づき、それに合った技術や経験、知識を持つ人を募集し、合格すれば訓練を受けることができます。主な目的は、開発途上国の経済社会の発展や復興への寄与、異文化社会における相互理解の促進、ボランティア経験の社会還元となっています。

応募できるのは、20歳から69歳までの日本国籍を持つ方で、募集期間は年に2回、春募集と秋募集があります。活動分野はさまざまで、本当にたくさんの分野があり、自分の専門分野や経験したことのある分野から、国を選んでいく形になります。私は昨年の2022年の秋募集に応募し、2023年、ちょうど1年前の4月に合格通知をもらいました。その3か月後の7月中旬から9月中旬まで、長野県の駒ヶ根訓練所で60日間の訓練を受けました。

訓練所では主に語学訓練がメインでしたが、語学訓練の他にも、オリエンテーションや各種講義があり、その国に必要な予防接種を受けたり、様々な講義を受講して、海外協力隊として必要最低限の知識や能力、適正を養うことが目的とされた訓練となっていました。1番の難関は、訓練所生活の最後の週にある語学の最終試験で、これに合格しないと訓練所を出ることができず、正式に海外協力隊として認められません。そのため、みんな土日も部屋に籠ったり教室で猛勉強しており、私も含めて常に語学に追われている60日間でした。

チリ・コロンボ州・ラセレナ

ここからは、派遣先のチリおよび活動内容について話していきたいと思います。私の派遣先は、南米のチリ共和国です。日本から約1万7000kmも離れた、ほぼ真反対の位置にある国です。チリはアルゼンチン、ボリビア、ペルーに囲まれた、世界一細長い国です。首都はサンティアゴで、国土面積は75万6600平方kmですが、縦に4300km、横に400kmの細長い地形となっています。

気候は南北で全く異なり、北の方は非常に乾燥していて、世界一乾燥した砂漠であるアタカマ砂漠があり、すばらしい星空が楽しめる観光地になっています。一方、南部に行くとアルゼンチンとまたがるパタゴニア地域があり、寒冷な気候となっています。一概にチリは暑いとか寒いとか言えない国で、地域によって服装も全く異なるのが難しいところです。

言語はスペイン語です。私は訓練所でスペイン語の勉強をしていました。チリは2018年にOECDの被援助国リストやDAC(開発援助委員)リストから外されており、世界的に見ると開発途上国から卒業している国と認識されていますが、日本政府としてはODA事業の継続を決定したため、未だにJICAの派遣先の1つとして残っています。しかし、近い将来、他の国に比べチリで派遣がなくなっても不思議ではない国だと認識されています。

私の配属先は、チリのコキンボ州のラセレナという地域で、コキンボ州のスポーツ庁に配属となっています。実際の活動拠点は、施設の一部を借りて畳を敷き、そこを道場のように使って柔道の指導をしています。ラセレナ自体は過ごしやすい街で、行った11月から2月はちょうど夏の時期で、朝は涼しく、日中は暑く、夜は冷え込むといった気候でした。

このスポーツ庁は各地域に配置されており、私はその1つのコキンボ州に配属されています。ラセレナの写真を見ると、海も山もあり、景色が非常に美しいです。チリと言えば、ワインが有名で、どこのスーパーに行っても大量のワインが並べられています。チリは雨が少なく、ブドウ栽培に適した気候なので、たくさんワインが作られています。また、チリとペルーでしか作られていないぶどうの蒸留酒の「ピスコ」も有名で美味しいです。

豊星柔道クラブ・グスタボ先生

私が実際に活動しているのは、豊星柔道クラブです。ここのクラブに所属して活動しています。活動日は週3回で、クラブの人数は約20名、小学生低学年から高校生までの幅広い年齢層で柔道をしています。最初は20人程度でしたが、最近では25人を超える程増えてきました。クラブの雰囲気は、子供たちや保護者の方々、先生方も含め、とても温かく親切で、練習中も練習以外でも和気あいあいとしています。

写真に写っているのがグスタボ先生です。グスタボ先生は豊星柔道クラブの監督であり、私のカウンターパートです。グスタボ先生は30年近くチリの柔道普及に尽力してきた方で、500kmも離れた地域に無償で柔道教室を開いて子供たちのために活動したり、小中学校や大学などで柔道の実演をしたり、様々な場所で柔道普及のための活動を行ってきました。
少し前までチリの柔道クラブは勝利至上主義の意識が強く、試合で結果を残した子や腕のある子は柔道クラブ同士で取り合いになることが頻繁に起こっていたそうですが、そういったことはだいぶなくなってきたとのことです。現在は、様々な方との出会いもあり、コキンボ州に拠点を置き、豊星柔道クラブの監督として活動しています。

グスタボ先生は、柔道選手を育てる以前に、社会に役立つ人間を育てることを大切にしながら柔道指導を行っている方です。私が初めてグスタボ先生にお会いした時、柔道に対する考え方や人としてのあり方など、日本の柔道家に近いものを感じ、素晴らしい方に出会えたことを嬉しく思いました。

活動内容

私がこの豊星柔道クラブで実際に行うことは、1つ目が各地の柔道教室を訪問し巡回授業を通して、人間形成を基に置いた柔道の価値と哲学の大切さを伝えること。2つ目が練習内容の改善点を考え、より効果的な練習指導方法を導入すること。3つ目が感染状況に応じてオンライン教室を実施すること。4つ目がバイリンガル関係者が行うメディアとの柔道資料翻訳に協力し、コキンボ州での柔道普及を支援することです。
3つ目の感染状況に応じてオンライン教室を実施するというのは、この要請が出た時はまだコロナ禍の最中だったため、柔道教室が開催できない場合にオンラインで実施するということでした。しかし、私が実際に行った時にはコロナは収まっていたので、オンライン教室は実施しませんでした。
4つ目の柔道資料の翻訳については、先ほど本のご紹介があったと思いますが、「発達が気になる子が輝く柔道・スポーツの指導本」のスペイン語翻訳をさせていただいています。まだ進んでいないのですが、この本を持ち帰らせていただき、内容を熟読した上で、より良い翻訳になるよう、私自身が理解を深めた上で、スペイン語に直す予定です。発達障害などの障害を持つ子供たちへの指導法なども学べるので、指導者の手助けになったり、障害を持つ子が柔道を始めるきっかけになれば嬉しいと思っています。

実際の活動の様子をご覧いただきますと、まず左上の写真では立礼をしているシーンがあります。チリに来た時は皆立礼をしていましたが、グスタボ先生に座礼で挨拶をするよう提案し、座礼での挨拶を導入しました。基本的にはグスタボ先生が練習を行っておりますが、グスタボ先生が来られない日には私が練習メニューを考えて練習をおこなっています。
小学校低学年から高校生までの幅広い年齢層がいるため、どうすれば同じメニューで飽きずに楽しめるかが難しく、どちらかに合わせてしまうとどちらかがついていけなくなってしまいます。しかし、みんな柔道が好きなので、練習中は私の拙いスペイン語を一生懸命聞き取り、一生懸命取り組んでくれます。

他にも1月に試合があり、様々な地域から柔道クラブが集まって試合がありました。この試合はオープン形式で、みんながメダルをもらえるようになっていました。色々と思う点もありましたが、試合自体が少ないので、こういった経験を子供たちがすることは、勝った嬉しさや負けた悔しさなど、今後の柔道の練習に役立つ貴重な機会だと思いました。試合を見ていると、日本とは異なり、勝っても最後に礼をして相手とハグをするなど、日本にはない良い面もあると感じました。

また、地域の小中学校で柔道教室を開催しました。ブルーシートの上にグスタボ先生の家にある簡易的な畳を運んで敷き、柔道クラブの子供たちがモデルとなって投げたりして、地域の子供たちに柔道を体験してもらう機会を作りました。初めてで興味があるという子もいれば、恥ずかしくてやりたくない女の子もいましたが、実際にやってみると楽しいと言ってくれた子もいました。この体験を通して、実際に柔道クラブに来てくれた子供もいたので、柔道普及には大変有意義な活動だと感じています。

他にも、障害者施設である「テレトン」で柔道の紹介をさせていただきました。テレトンはチリの障害を持つ子どもたちへの支援施設で、年に1回「テレトンの日」と呼ばれる24時間テレビのようなイベントがあり、その日に募金を募って施設や子供たちへの支援を行っています。とてもきれいな施設で、車椅子に乗っている子や肢体不自由の子もいましたが、実際に柔道着を来てもらい、立ち技が難しい子は寝技をして、柔道クラブの子供たちと勝負をするなどして楽しんでもらいました。障害を持つ子供たちにとって、柔道はスポーツの選択肢の1つになり得るので、そういった子供たちへのサポートや柔道を知ってもらうきっかけになったのではないかと思います。

チリでの主な活動としては、今のところこれらの4つが中心となります。

日本との違い

実際に経験してみて、日本との違いを感じたことがいくつかありました。まず、柔道という競技の認識で、勝ち負けだけでなく、柔道家としてのあり方など、クラブによって違いがあり、勝つことを望む気持ちは分かりますが、それだけが重要ではないということをもっと知ってもらう必要があると思います。また、道場や畳などの場所の確保が難しく、柔道の認知度も低いのが現状です。日本のように当たり前に柔道ができる環境は本当に当たり前ではないと認識しました。
さらに、空手や柔術を習っている方が多く、その経験から柔道を教えてほしいと言う方も多くいました。基礎よりも応用を先に希望する人もいて、SNSなどで海外の選手が変わった技を見せているのを真似したがるため、危険を伴う技もあるのでまずは基礎から教えることを心がけていました。

また、指導者や選手のルールの把握が不十分で、ルールが変更になっても認識が追いついていなかったり、反則や技あり・一本の線引きが分かっていない場合がありました。国内でもルールに違いがあるので、そういった点での認識不足があると感じました。さらに、障害者の柔道選手へのサポートは全くなく、そういった面での活動の場を広げていきたいと考えています。

今後について

今後の目標としては、様々な学校や道場を巡回し、柔道を通した人間形成の大切さや柔道の楽しさを教えていくことです。また、学校や家庭以外での子供たちの居場所作りや、女性や障害者の方の可能性を広げていくことがあげられます。さらに、その国にあった指導方法を見つけ、子供たちのレベルに合わせた練習内容を考えること、そして柔道だけでなく、国全体に柔道を広げていくことを目指しています。

ここまでチリでの柔道指導に関する真面目なお話をさせていただきましたが、活動の面以外では、グスタボ先生のご家族にも大変お世話になっています。ホストファミリーとしてお家に歓迎していただいたり、家族のお出かけに一緒に連れて行ってもらったりと、温かく受け入れてくださり本当に感謝の気持ちでいっぱいです。このように、活動以外の面でもいろいろな方々と交流でき、海外で活動するメリットは多いと感じています。

私の話は以上となります。話がまとまっていない部分もたくさんありましたが、ご清聴ありがとうございました。何か質問がありましたら、お答えできる範囲でお答えしますので、何でもお尋ねください。

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