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柔道人口が拡大するためには?富山県による画期的な調査研究から

富山県柔道連盟は2022年3月、「柔道人口拡大のための調査研究 令和3年度のまとめ」を公表した。以下この調査研究のポイントと竹内優香先生による講演の動画をみていく(3.0マガジン編集部)。

この調査研究は以下の三つの点で画期的である。

一つ目は、県という単位で、柔道人口の推移や現状に関する客観的状況を調査してそのデータを公開した点である。毎年、全日本柔道連盟のウエブに登録人口の総数などが掲載されるが、見聞きする範囲では、現状を詳しく理解するための客観的データはなかなか見当たらない。

二つ目は、県内の指導者が集まって、柔道人口の減少の原因と対策について話し合いが行われたこと、その内容をまとめて公開した点。

三つ目は、県内の各クラブがどのように新規のメンバーを募集しているのか、などについての取り組みがまとめられている点である。

柔道人口の減少が話題になっても、柔道人口の現状、原因、これからの対策案についてまとまった情報はなかなか見当たらないのでとても参考になる。

1. 【動画】調査研究の概要&中学体育授業の柔道 -竹内優香先生

そこで、2022年11月4日(金)、3.0オンラインカフェにて、この調査研究のメンバーである竹内優香先生にお越しいただき、調査研究の内容についてお話をいただきた。

富山県による柔道人口拡大のための調査研究を読む!-竹内優香氏-

ここでは、調査研究の内容のほか、中学校教員として竹内先生が取り組んでいる学校体育の授業としての柔道についてもお話をいただいている。柔道クラブや学校柔道部は希望者が行うものだが、公立中学校の授業は柔道を希望しない者も柔道をすることになるので、どのような授業をしたらいいのかその工夫が大事になる。授業の内容もお話くださっているので、詳細は動画をご覧ください。

2. 柔道人口の統計に関するポイント

柔道部・クラブへの加入率

県内の柔道登録人口は、ピーク時と比較すると60%~80%減少している。

<ピーク時(カッコ内の年度)と比較した令和2年度の人口の割合>
小学生:30.4%(平成 2 年度)
中学生:39.2%(平成 9 年度)
高校生:23.4%(平成 3 年度)
大学生:18.1%(平成 9 年度)
社会人:28.7%(平成 2 年度)

もっとも、これだけだと地域全体の人口減少による減少とそれ以外の理由による減少の区別がつかない。この調査研究で画期的な点は、その年度のすべての小学生、中学生、高校生のうち、何人が柔道部に入部したか、柔道部(クラブ)加入率を調査した点である。加入率は地域全体の子供の人口減少の影響を受けない。

この調査によると、ピーク時と比較した場合、50%程度、加入率が低下している。

<ピーク時と比較した令和2年度の加入率の割合>
小学生0.71%(ピークの平成11年度1.49%): 47.7%
中学生1.37%(ピークの平成 15 年度2.80%): 48.9%
高校生0.79%(ピークの平成9年度1.43%): 55.2%

つまり、大まかにいうと、柔道人口の総数は60~80%減少しているが、そのうち地域全体の子供の数が減少したことによる減少は10~30%、残りの50%は、子供の総数の減少ではなく、柔道が選ばれなくなったことが理由だと考えられる。

小学生・中学生・高校生の男女別の柔道人口の推移

この調査研究には、平成25年から令和元年までの、小学生・中学生・高校生の男女別の柔道人口の推移が掲載されている。中学生と高校生の男子が顕著に減少しているが、興味深いことに、小学生、中学生、高校生の女子はあまり減少していない。男女でこれほど異なる理由は何であろうか。ここには何らかのヒントがあるかもしれない。

他種目との比較

中学校と高校の柔道部の部員数の推移に関しては、他の種目との比較が掲載されている。柔道や剣道は毎年減少しているが、陸上競技は毎年増加している。なお、中学のサッカーや野球も減少しているが、これは部活ではなく、クラブチームに所属したことによる減少ではないかと考えられている。陸上競技が増加している点は意外であったが、ここにも何らかのヒントがあるかもしれない。

3. 柔道人口減少の原因と対策についてのポイント

調査研究では、指導者が集まって原因と対策を話し合うグループワークを行っており、5つのグループワークの内容が公開されている。以下はグループワークの報告からの抜粋であるが、詳細は本文のほうをお読みいただきたい。

柔道のイメージと練習方法
  • 練習の中に「遊び」の要素を積極的に取り入れ、「楽しい」、「おもしろい」、「できる」などの喜びや効力感を感じさせる指導の普及が必要である。(11頁)。
  • 柔道に対するマイナスイメージを変えるために、練習内容について勝つための練習ではなく、楽しく体を動かすことを意識した練習を取り入れたりする。(13頁)
  • 練習方法について、子どもが楽しさを感じづらい内容になっている。➡柔道遊びや形の練習、コーディネーショントレーニングを取り入れ、練習内容に変化を加える。また親子での練習やトレーニングを行う機会を設定し、柔道をコミュニケーションの場の一つとして提案していく。(14頁)
柔道の魅力
  • 団体の活動のPRとして、成績はもちろんであるが、児童生徒の成長にどのような効果があるのか、その他の社会貢献活動にどのようなことをしているかなど、活動を明確にする必要がある。特に、発達障害をもつ児童生徒でも柔道で改善された例や、柔道団体が地域社会に貢献したことをしっかりと世の中に伝えていくことが大切である。(12頁)
  •  「柔道の魅力」に対する指導者側の認識が曖昧である。➡ 柔道の魅力には、礼法が身に付くこと、できなかったことができるようになることなど、様々なことが挙げられるが、「試合で勝つこと」に重点が置かれる傾向にある。指導者は柔道の魅力を多面的な視点で捉えることが重要である。(15ページ)
指導者の研修
  • 練習内容の改善検討を行うための指導者育成講習を開催する。(13頁)
  • 指導者の勉強不足もあり、時代にあっていない指導方法になっている。➡指導法についての勉強会や、ルールの講習会を定期的に行う。(14頁)
  • 指導者が不足している。特に、中学校、高等学校に柔道の専門知識を持った教員が極端に少ない。また、練習内容、指導方法が変わらない。➡ 柔道指導者バンクを作成し、地域ぐるみで柔道を指導できる体制を作る。また、体つくり運動や運動遊びの中に柔道の動きを取り入れることで柔道に興味を持ってもらう。
グループワークを終えて
  • 「柔道人口の減少」は、富山県に限らず日本柔道界全体が抱える最大かつ深刻な課題であることを認識しました。そして、それは単に少子化によって引き起こされる現象というだけではなく、暴力・体罰の根絶、重大事故の防止、青少年の練習環境の確保、女性の登用や良質な指導者の育成など、様々な課題が複合的に関連し合っており、根深い問題であることに気づくことができました(11頁)。
  • 特に、柔道にあるマイナスのイメージを変えていくことが今後の柔道人口を増やしていく鍵になると思われる。そのため、柔道の楽しさや魅力を発信することを意識しながら指導者として今後できることを考えていきたい。(13頁)
  • 今回の検討会を経て、「柔道人口の減少」問題の根底には少子化や指導者不足、不適切な指導など、柔道界全体としてのさまざまな課題がある以上、チームや学校単位の対策では解決は難しいと考えました。特に少子化による柔道人口の減少については、今まさに全国的に直面している課題です。部活動の地域移行化が進んでいくという流れの中にあっても、まだまだその具体的な方向性が見えていないと感じます。(14頁)

おわりに

最後にこの調査研究を読み終えての感想をいくつか。

  • 県内の指導者が実際に集まってグループワークを行った、という点に大きな意義があると思った。他の都道府県でこのような取り組みが行われているのか、情報を有しないが、このように指導者が集まって真剣に話し合い、その内容を公開して、全国の人々と共有するようになったら、状況はもっと良くなるのではないだろうか。
  • 柔道人口の減少はよく話題になるが、この富山県柔道連盟が行ったような調査研究を目にする機会はなかなかない。ネット上に公開されていない又は公開されているが見つけられていないだけかもしれないが、長い間、柔道人口が減少しているので、非常に大変であると思うが、統計等に基づく現状の詳しい分析、その原因の調査、これから何をしたらいいかの対策案について、本格的な調査検討をして、全国の指導者と共有したほうがいいのではないだろうか。
  • 考えられる原因や対策の候補を上げられたが、具体的な制度や運用にどのように落としていくかは今後の課題となる。指導者、クラブ、柔道協会、それぞれできることは限られているので、様々な選択肢がある中で何にフォーカスしたらいいのか。なお、このように考えることができるのも、土台にこの基礎的な調査研究があるからである。

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