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「忘れ去られた身体性とその価値」食×祭り×鍼灸×柔道のコラボ開催レポート

11月11日(土)13時、東京・外苑前、Mistletoe株式会社の社屋をお借りして、社会起業家育成集団SUSANOOが主催する「からだを通して社会を感じなおすー忘れ去られた身体性とその価値ー越境ラボvol.12」が開催され、以下の起業家が登壇。judo3.0の酒井もスピーカーの一人としてお話する機会をいただいた。

  1. 大原 学 【一般社団法人マツリズム 代表】:1983年神奈川県南足柄市生まれ。幼少期から祭りに強い憧れを抱いて育つ。大学在学中に祭りの魅力に目覚め、米国留学時にはソーラン節の普及を行う。日本GE株式会社、NPO法人クロスフィールズでの勤務を経て、2016年に退職、マツリズムを設立。
  2. 望月 祐佳 【一般社団法人Mealink 代表理事】17歳で心身のバランスを崩し、心と食の関係に関心を持つ。20歳で自らを完治させる過程で様々な食療法を学ぶ過程で、食事は自分だけではなく、社会そのものをつくっていることを知る。学生時代より食事の大切さを伝える、Mealinkの代表として活動中。
  3. 伊藤 由希子 【次世代はりきゅうレボリューションズ 代表】 鍼灸あん摩マッサージ指圧師。1990年生まれ。東京衛生学園卒業後、2016年4月に次世代はりきゅうレボリューションズを発足。
  4. 白石 哲也 【次世代はりきゅうレボリューションズ 副代表】鍼灸あん摩マッサージ指圧師・理学療法士。1985年生まれ。花田学園日本鍼灸理療専門学校卒業。「フィジオ鍼灸マッサージ三軒茶屋」院長。2016年4月、次世代はりきゅうレボリューションズを発足。
  5. 酒井 重義 【NPO法人judo3.0代表】東北大学法学部、同大学院法学研究科修士課程修了。都内で弁護士として活動後、「体育・運動」と「つながり」を軸にした教育・福祉・医療システムの再構築にあるとの認識に至り、発達障害児向けの運動療育福祉施設の経営などを経て、2015年1月、世界200カ国に普及する柔道コミュニティを中核とした次世代公教育の構築に取り組むjudo3.0を設立。

一見すると、食、祭り、鍼灸、柔道(運動)と何ら関係がないように見えるが、「身体へのアプローチを通じて社会課題を解決しよう」という視点、そして「起業した」、実際に動き始めた、という点が共通している。実は「身体」と「社会課題」をともに話すことのできる機会はとても少ないと感じている。例えば、柔道や運動、スポーツといえば、メダル、競技成績の話題が多く、健康、福祉、教育、平和や社会参加などと関連して話題にする機会はなかなかない。そんななかで、このイベントはまさにこの点を正面から捉えており、わざわざ休日に足を運ぶほどの関心と情熱がある方々とお話する機会をいただけたことは本当に貴重でありがたかった。

登壇者のお話で興味深かったこと

「祭り」
機械化が進み、「人」の役割が、その境界が不明確になってきた現代。おそらく祭りは人が人であることを肯定する、人の再生を担う大きな柱になる。その祭りが急激に減少している、これをどうにかしようと祭りのイノベーション支援を行うマツリズムの大原さん。とても興味深かったのは、神輿でも獅子でも、とにかく祭りの道具は「重い」こと。つまり祭りとは複数の人が協力しながら身体を動かす仕組みであるという指摘。なるほど!これがあるから信頼関係のある、安心安全な社会を築くことができたのかと。
「鍼灸」
「鍼灸で救われた」という話、たくさんありますが、多くは様々な病院を回ったけれどもダメで、最後に(神頼みで)鍼灸にいったらよかった、という話。最初から鍼灸に行ったらそれで済む話なので、いったいなぜ最初の選択肢に鍼灸がないのか? この課題に取り組む「次世代はりきゅうレボリューションズ」の伊藤さんと白石さん。興味深かったのは、白石さんが東洋医学の何とも言えない怪しさの正体を探求するなかで、東洋と西洋を行き来した近代日本最大の仏教学者、鈴木大拙の著書が役立ったという点。明治維新からはじまる近代化、西洋化から約150年。それ以前には何千年にも及ぶ日本文化・東洋文化があったわけで、今に至るまで日本の基底にはその文化が流れている。普段は気がつきませんが、鍼灸はその入口を提供してくれているかも、とふと思いました。あと、鍼灸を哲学的に探究する雰囲気の白石さんと対照的だったのが、情熱の塊のような伊藤さん。伊藤さんが人と接するたびに「鍼灸!」という熱がひろがっていく感じ(飛び火!)がして、ライブの醍醐味をみた感じでした。
「食育」
代表のもちゆかさんが学生のときに立ち上げてから今年で8年目に突入するMealink。健康的な食生活をしたら健康になれるのに、いったいなぜ多くの人が不健康な食生活をして身体を壊していくのか。Mealinkは、長い、本当に長い探求を続けるなかで、「人の食生活は変わらない」ということが分かったという。たった一つの例外を除いては。その例外は何か。Mealinkは人の食生活を変える方法を見出した。世紀の大発見だと思いましたが、答えは「誰かのために食事をつくること」。あまりのシンプルさ、数学の公式のような美しさとそこに至るまでの膨大な探求を喚起させられました。便利になっていくとともに、人は誰かのために食事をつくる機会とその幸せを失ってきたのか、、、と。

運動の意義

judo3.0の酒井からは、以下のようなお話をさせていただきましました。

  • 近年の脳の研究により運動が「万能薬」とでも言えるような効果があることが明らかになっているが、にもかかわらず運動で予防・改善を見込める精神疾患、認知症、慢性疾患は増加し続けている。これは広い意味での「体育」が機能してない証左ではないだろうか。
  • この問題を把握するには、ダニエル・E・リーバーマンが著書「人体600万年史」でふれた進化論からの視点が役立つと思う。人類は長い進化の過程で、身体を動かして食べ物を獲得する、ということに最適化した身体を開発してきたが、産業革命以降の200~300年で、身体を動かさなくても食べ物が獲得できるようになった。人間の身体は、運動しない、ということに適応できないため、その結果、病気、障害が発生しているという視点。
  • さらに、運動・体育には「平和」を担うインフラという視点をもつことも大事。ジョン・F・レイティの著書「脳を鍛えるには運動しかない」では、暴力事件(子供の喧嘩)が頻発する米国のあるスラム街にある小学校で、週1回だった体育を毎日するようにカリキュラムを変えたら、暴力事件が半分以下になったという事例を紹介している。人の認知のゆがみ、対人関係の不和が運動不足、脳機能の不十分な発達からきているという視点を持つことが大切ではないか。
  • オリンピックに象徴される「競う」という運動のかたちは人の運動を促進する仕組みの一つ。judo3.0は次世代の運動のかたちとして「つながる」という運動のかたちを提案。子どもたちが世界中を柔道しながら巡り、多様な人とつながりながら、オンラインで知育を学ぶ、という学校の設立を目指している。すでに類似事例は海外にある。
  • この取り組みを通じて、現在の「知育」重視の公教育(動かない教育)から、「体育」を中核とした公教育(動く教育)への転換することを目論んでいる。

グループディスカッション

登壇者のトークの後は、30名弱の参加者の皆様とグループディスカッション。「身体」について、「柔道」という切り口からいつも考えて試行錯誤しているのですが、「身体」というテーマで話す機会はなかなかありませんでした。ところが、今日は、

  • 西洋の身体管理メソッドを学び、実践している方
  • 学校の保健室で勤務するが、生徒の身体や悩みにどう向かい合うか探求されている方
  • 製薬会社に勤務されている方
  • スマホ依存症に取り組もうとされている方
  • 激務の広告業界でサバイバルする「体育会系人材」のすごさについて語ってくれた方
  • 人の幸福度を上げるアプリを開発している方
  • 仕事の山あり谷ありのストレスをバスケで乗り越えてきたという方
  • 医療機関の連携に取り組んでいる方
  • 将来、柔道クラブを立ち上げたいという方
  • 心が折れたとき運動したら解消できたという方

などなど、本当にたくさんのバックグランド、ご経験からくる独自の視点をもっている方々と意見を交換することができ、たくさんの学びがありました。なにより楽しかった!

大河の一滴を。。

このような場を創ったのはソーシャルベンチャー育成集団「SUSANOO」。誤解を恐れずに単純化すると、今日のテーマは、

「身体」を大切にしたら、自分も友達も社会もよりよくなるよ」

ということ。それは誰もが「そんなことは知ってるよ」ということ。そして知ってるけど、、

食や運動不足が原因で健康を損なう人は増え続け、
鍼灸で救われるはずだった健康は損なわれ続け、
祭りは減少しつづける

この圧倒的な現実を前にして自分たちの活動は大海を前にした一滴の水滴にすぎない。ここと向かい合うと絶望的な無力感、孤独感、自己満足にすぎない感が、、。それでもそれぞれ1つの水滴だったけど、今日は4つの水滴が加わり(登壇した5人)、そして30の水滴が加わった(参加してくださった方々)。なんか元気になります。この水滴を集めてくださったSUSANOOの中澤 紗椰さん、小出紘大さんほか皆様に心から感謝です。

今日のこの取り組みは、近年よく耳にする「コレクティブ・インパクト」、単独の組織ではなく、様々な組織が協同して社会課題の解決を目指すアプローチを具体的に考えるきっかけになりました。これからが楽しみです。なお、SUSANOOチームによるこのイベントのレポートはこちらをご参照ください。

酒井重義 NPO法人judo3.0代表

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