ブータン王国で柔道と文化交流をして
こんにちは、3.0マガジン編集部の小崎亮輔です!この記事をご覧のみなさまは、南アジアにあるブータンという国をご存知でしょうか?近年話題にもなっていますが、ブータンは国民の97%が幸せであると答えているそうで「世界一幸せな国」と呼ばれています。いったい、どのような国なのでしょうか?そこで今回は、津田塾大学のマーヤ・ソリドーワル先生が今夏にブータンへ柔道旅行に行った際のお話を伺おうと思います!
ブータン王国で柔道と文化交流をして
Maja Sori Doval
ブータンという国
2017年8月18日から24日まで、judo3.0のフォーラムで出会った町田郁子さんとブータンに旅立つことになりました。フォーラムで「柔道着を持って世界を回りたい」という話で盛り上がったのがきっかけで、「普段は行けない、異文化が体験できる国に行こう」と2人で共感しました。そして、南アジアの内陸部にある国、ブータンに行こうと決めました。これについては職場の同僚である堀内芳洋氏のご紹介のおかげです。彼は青年海外協力隊員として 2 年間ブータンで柔道を指導していました。
ブータン王国の人口は約72 万人で、面積は 38,394 平方キロメートルで九州とほぼ同じです。首都は標高2,400 メートルの高さにあるティンプーです。ブータンにはまずバンコクで一泊してから、19 日の朝に標高2,300 メートルの高さにあるパロ空港に着きました。パロ空港はブータン唯一の国際空港ですが、滑走路は一つしかなく、誘導路から旅客ターミナルまで直接徒歩で移動できる小さな空港です。
大自然に感動して
パロ空港に着陸してから「夢の異世界」に入った感じを強く受けました。伝統的な建築のターミナルビル、民族衣装を着る税務官と王族の写真はとても印象的でした。続いて、車で柔道場がある首都のティンプーまで移動した際に、緑と山がつくりだす大自然に感動させられました。また牛や馬、野良犬などの姿がよく見えました。ガイドさんの話によると、ブータンの人々は仏教の信者として全ての生き物を大事にするそうです。現在は肉を食べる習慣こそありますが、動物を殺してはいけないため、肉は海外から輸入されるそうです。魚釣りも禁止されているみたいです。また、僧院や寺院が多く、仏教文化の影響を強く感じていました。
空港を出たら、そこには大自然が広がっていました。
ブータン柔道協会の軌跡
初日は、ペルキル私立高等学校の柔道クラブを訪ねました。このクラブは、2010 年にブータン最初の柔道クラブとして発足しました。2013 年からはペルキル私立高等学校の柔道クラブはブータン柔道協会(Bhutan Judo Association)も兼ねています。現在、ティンプー各地から多くの子ども達が練習に参加しており、ブータン柔道協会には約140人の柔道家が所属しています。小学生の割合が最も多いです。2016年、ブータン柔道協会は国際柔道連盟の加盟団体として認められました。そして2017年には、ジュニアの国際大会にブータンの選手が初めて出場することになりました。ブータンでの柔道の普及と貢献に大きく貢献したのは、青年海外協力隊に派遣された日本人の柔道家です。その中に、2014 年から 2016 年にかけて派遣された堀内芳洋先生(※)や 、2017 年から堀内先生の後任として派遣された内田美憂先生がいます。現在、内田先生は上級者を中心とする指導を行っています。新しく入会した初心者にはペマ・ダルガイ先生が教えています。
※編集部注:青年海外協力隊員であった堀内芳洋先生は、「国内に対戦相手のいないブータンの子供たちのために、日本に遠征して大会出場の夢や柔道を通した国際交流を実現したい!」としてクラウドファンディングを実施、144人の支援者、約160万円の支援金を得て、2016年3月2日~16日までの15日間、ブータンの子供達を日本に招き、国際柔道交流を実現されました。その様子はこちらを!
ペル・ダルカイ先生(中央)
ペルキル柔道クラブの稽古日は、月曜日から土曜日までの 6 日間です。
稽古は日本と同様に、準備運動、回転運動や受け身等を含む補強運動から始まり、打ち込みなどの技の反復練習、そして乱取りから構成されていました。準備運動、補強運動や最後の整理体操は全員で行われましたが、柔道の稽古は基本的に小学生を中心とする初心者グループと、中学生と高校生を中心とする上級者グループに分かれて行われていました。私達は19日と21日に、グループ別に指導を行いました。真面目に人の話を聞く小さい子ども達の姿勢に感動しました。上級者は技術のレベルがとても高く、柔道の基礎がしっかり身についていました。稽古の雰囲気は日本とほぼ変わらなく、礼法も日本と全く同じ日本語で行われました。ブータンの子ども達が稽古終了時に日本語で「ありがとうございました!」と大きい声で言っていたのが印象的でした。
上級者グループへの指導の様子
他国からのサポートと、現状の困難
ブータンへは海外青年協力隊やオーストラリア柔道連盟、神戸ブータン友好会の支援をはじめとして、柔道着や畳の寄付等を含む幅広いサポート活動があります。しかしながら多くの柔道家は柔道着を買えない、クラブの会費を払えない等の経済的な問題を抱えています。また将来の選手育成を考えると、柔道専用のトレーニングセンターの建設も必要です。さらに中学生になると、やめる子どもが多い現状もります。ペマ・ダルガイ先生のお話によれば、経済的に余裕がない家族の柔道に対する理解が足りないことが理由として挙げられるそうです。将来に向かって勉強や就職活動に集中して欲しいという思いが一つの原因だそうです。
国立僧侶学校、デチェン・フォダン僧院を訪問して
柔道以外には、ホームステイを含めたブータン文化との交流ができましたが、特に印象に残ったのは小僧達が勉強している国立僧侶学校のデチェン・フォダン僧院を訪ねた機会でした。授業中に一緒に折り紙をしましたが、4才から高校生までの子ども達が夢中になって素直に紙を折っている姿が忘れられません。鶴が完成できてから新鮮な笑顔になった子ども達を見ると、ゲームやインターネットのバーチャルリアリティー(VR)が流行っている先進国において、こういう簡単な喜びが失われてきているのではないかと感じました。
デチェン・フォダン僧院の授業で折り紙を一緒にする様子
さいごに
ブータンで過ごした5日間は非常に貴重で、有意義な体験で、人生を省みる良い機会にもなりました。心が豊かな幸せの国、のブータンの人々との出会いのおかげで、周りの人や毎日の一瞬一瞬を大切にする重要性を理解できました。また、世界をつなぐ柔道の良さを再び強く感じました。
これからも、いろんな国へ行って柔道をしたいと思います。
Maja Sori Doval
比較武道研究者・津田塾大学専任講師