女子の「楽しい!」から大人の柔道がはじまる〜名古屋介護系柔道部の「草柔道」への挑戦〜

こんにちは。3.0マガジン編集部の酒井です。今回は愛知県名古屋市の「名古屋介護系柔道部」の取り組みを伺います。名古屋介護系柔道部は、

  • 柔道人気が下火といわれる昨今、最近、大人が集まってできた
  • メンバーが100名を超え、そのうち女性が30~40%もいる

という点でとても特徴があるクラブです。これだけ多くの大人、特に女性を惹きつけるには何か秘密があるのではないか、そのように考え、名古屋介護系柔道部の広報を担当されている佐々木雄一郎さんにお話を伺う機会をいただきました。

酒井:佐々木さん、今日はよろしくお願いいたします。稽古はどのぐらいの頻度でされているのですか。

佐々木:定例の稽古は、月1回、第4金曜日と決めています。

酒井:仕事で多忙な社会人にはちょうどいい頻度かもしれませんね。

佐々木:継続して活動することを考えたとき、このぐらいの頻度がちょうどよかったんです。私たちはメンバーのことを部員と呼んでいますが、部員は2017年6月末で105名います。部員になることができるのは1回以上は稽古に参加すること。一緒に汗を流した方に限定していて、普段の定例の稽古には25名から30名ぐらいが集まってます。

大人の柔道クラブの可能性は無限大

大人がつながる楽しさを発見した

酒井:どのようなきっかけで名古屋介護系柔道部がはじまったのですか。

佐々木:約2年前にはじまりました。わたしは老人ホームの介護職員なのですが、介護の研修を受けているとき、その場にいた数人の参加者がたまたま柔道経験者で、「柔道をやってみようか」と盛り上がったのがきっかけでした。やってみたら楽しくて。学生時代と違う感覚でした。

酒井:佐々木さんは、以前、柔道をされていたのですね。

佐々木:はい。中学2年生のときに町道場で柔道を始めました。その後は、その町道場の少年柔道教室にときおり顔を出していた程度です。

酒井:先ほどの「やってみて楽しかった」「学生時代とは違う感覚」っていうのはどういうものだったのでしょうか?

佐々木:運動して汗をかいたってことがまず楽しかったんですが、会社以外の同業他社の人と学生時代の仲間のようなつながりを得たことがとても楽しかったんです。仕事をしていると、なかなか会社以外のつながりができなかったりします。それに、介護業界の研修や飲み会で、会社以外の人と話す機会はあるのですが、学生時代の仲間のようなつながりはできません。

酒井:確かに、大人になってから、学生時代の仲間のようなつながりを得る機会ってありそうでないですね。

佐々木:そうなんです。一緒に柔道をしたら、そういうつながりができるってことは大きな発見でした。だから、単発で終わらせるのはもったいないから継続してやろう、ってことになったんです。

大人が社外に人脈をもつことの意義

酒井:大人になって仕事が忙しくなると学生時代の仲間のような友達ができない。そんな課題に対して柔道が貢献した、というのは大きな発見だと思いした。ところで、「名古屋介護系柔道部」という名前ですが、「介護」をお仕事にしている方が多いんですか。

佐々木:そうですね。ホームヘルパー、老人ホーム、デイサービス、訪問入浴、福祉タクシー、養護学校教員など介護関係の仕事をしている人が多いですが、高校の先生、美容師さん、薬局や設計事務所で働く方もいて、いろいろです。

酒井:わざわざ「介護系」と名前をつけるぐらいだから、何か理由があったんでしょうか。

佐々木:もともと介護の研修で会った仲間と始めたのですが、介護という同じ業界にいるけど、なかなか会う機会がない、だから柔道を通じてつながろう、というのがあったんです。

酒井:介護職につく人が社外に人脈をもつ機会としても考えていたんですね。

佐々木:はい。仕事をしていくうえで、そして仕事のレベルを高めていくうえで、社外に仕事で相談できる人、連携がとれる人がいるってことは本当に大事だと考えています。職場は違うけど同じ業界にいて、切磋琢磨というか、あの人が頑張っているから自分も頑張ろうとか、会社の外にでることで新しい知識とか視点を得たりとか。

介護は人の命を預かる仕事なので、失敗は許されず、常に成長していかないといけません。業界としての人材育成を考えると、社内だけの人材育成には限界があります。同じ業種の人が会社の枠を超えて交流して相互に高め合うような環境が必要だと思っていたんです。

酒井:大人の柔道クラブを通じて、大人が学びあえる教育環境を作ろうとされたんですね。設立から2年たって、改めてそのあたりはいかがですか。

佐々木:100人を超えるクラブになったのは、大人が会社という枠を超えて仲間ができることを大切にしているからかもしれません。柔道で生まれるつながりは、研修とか飲み会で得られるつながりとは全然違いますし。そういえば、もう一つ気をつけていることがあります。それは稽古後の飲み会を行わないことです。

稽古と飲み会を分ける

酒井:稽古をした後に飲み会をしないのですか?

佐々木:稽古=飲み会とすると、どうしても飲み会目的の方がでてきて、稽古のクオリティが下がってしまう。純粋に「柔道をしよう」という方が楽しめなくなってしまうからです。

酒井:稽古の日は稽古だけとすることで、柔道そのものを楽しめるようにされているのですね。ただ、さびしい気もしますが。

佐々木:稽古とは別に、年2回、オープンな交流会を開催しています。夏の納涼祭と冬の忘年会です。このときは稽古に参加している方のほか、稽古にこれないけど、柔道や部員に興味があるって方々もお招きして盛大にやってます。私たちは「飲み会部員」と呼んでいますが、ここから稽古に参加するようになった人もいますし、なにより大人同士のつながりを広くつくることができます。

酒井:「柔道したい」という想いのある方が満足できる稽古ができ、かつ、交流したいっていう方が広く交流できる。稽古と飲み会を完全に分けるという運用は、大人の柔道クラブの運営に役立つポイントだと思いました。それでは、稽古、交流会のほか、何か取り組みがありますか。

出稽古から子どもたちのキャリア教育へ

佐々木:先日、高校生の進路相談みたいなこともやりました。高校に出稽古に行かせていただいたのですが、「看護師になりたい。だから看護師の仕事をもっと知りたい」っていう高校生がいて、うちの部員に看護師がいたので、その部員の職場見学にいってもらったんです。

酒井:高校生が、柔道という縁で、自分が将来やってみたい仕事に近づけるというのは素敵ですね。子供達のキャリア教育に大人の柔道クラブが役立ったということですね。

佐々木:いま中高生は、親や先生以外の大人と接する機会がなかなかありません。中高生がいろんな大人と接する機会をもったら、彼ら彼女らは、自分たちのキャリアを考えるきっかけになると思います。スマートフォンで簡単に情報が入手できる今だからこそ、自分で体感することが大切だとおもうのです。

名古屋介護系柔道部には、介護に留まらず、様々な職業の方々が集まっているので、出稽古などを通じてお役に立てたらと思っています。それに、私たちしても、介護や医療福祉などの仕事を知ってもらえるし、「この分野で仕事をしたい!」っていう若者が増えることにもつながると思うので、ウインウインな関係なんです。

酒井:大人の柔道クラブが地域の子ども達のキャリア教育の一翼を担うという発送はすごいとしか言いようがないです。それが業界の人材発掘や人材育成につながるとは。

柔道を生涯スポーツにしたい

大人が敬遠する柔道のままでは衰退する

酒井:ところで、女性が増えたのはなぜなんでしょうか?

佐々木:その前に、今は100人を超える仲間がいますが、最初は女性どころか男性も全然集まらなかったんです。

酒井:え、そうなんですか。

佐々木:そうです。まずは経験者を探そうと思って。柔道経験者はいたんですが、みんな「ケガをするから嫌だ」とかいってやりませんでした。たくさん声をかけたのですが「柔道はもうイイや」っていう柔道経験者の柔道アレルギーには驚きました。自分もたまたま再開したので大したことは言えませんが、柔道が衰退している」と言われている理由がわかった感じがしました。

酒井:柔道が衰退する理由はどこにあると思ったのですか?

佐々木柔道だけではありませんが、競技選手としての全盛期は20代でピークだと思うんです。でも、柔道の場合、その後の道が指導者になるしかない。追い込んだ練習をして大会で勝利を目指す、ってかたちの柔道しか思い描けないと、「ケガをするから嫌だ」とか「柔道はもうイイや」ってなります。純粋に「柔道したい」という人は離れていってしまう。中年から柔道を始めることもできなくなってしまいます。

酒井:大人ができないスポーツは衰退するってことですね。

佐々木:「草野球」って言葉がありますよね。少し古いイメージかもしれませんが、「野球やろうか」っていって、やりたい人がバットとかグローブを持って空き地に集まって、野球して、日が暮れたら家に帰る。そこには楽しさしかないし、キツイとか苦しいとない。あんな感じで「草柔道」のような楽しい柔道のカテゴリーが広がらないと、柔道をする人は増えないと思いました。私たち名古屋介護系柔道部は、草柔道のようなもの「柔道をやわらかく考える」ことを目指しています

女性が増えたら男性は自然と集まってくる

酒井:「草柔道」という言葉をはじめて伺いましたが、分かりやすいイメージだと思いました。話は戻りますが、どうやって柔道をやってみたいというメンバーを見つけたのでしょうか。柔道の経験者で柔道をやりたい人があまりいなかったといことですが。

佐々木:私は、ターゲットは誰か、ということをよく考えることが大事だと思ってます。私たちのターゲットは、学生や競技選手ではありません。介護の業界で社会人の男性や女性です。では、その社会人の男性や女性に来てもらうにはどうしたらいいか。

ここに仮説がありました。クラブに女性が増えたら、男性は勝手に集まってくるだろうと。男臭いクラブだったら女性も、男性も来ないと思ったのです。だから、どうやったら女性にきてもらえるかを考えました。それに介護は女性が多い職場です。だから介護で働く人々がつながる柔道クラブを作ろうと思ったとき、女性が参加しやすい環境をつくる必要がありました。

酒井:クラブの人数を増やすポイントは女性が参加することだったんですね。女性が増えると男性が集まる。

佐々木:そうです。活気がでるからです。名古屋介護系柔道部はその目論見があたって、女性が増えたら、経験者未経験者問わず、自然と男性増えていきました。

酒井:柔道人口の減少がよく話題になりますが、ここは人口を増やす上で大きな発見だと思いました。それでは、いったいどのような取り組みをしたら女性が増えたのでしょうか?

佐々木:やっぱり徹底的に相手の立場にたって考えて実践することだと思います。

酒井:どういう意味ですか?

佐々木:もし、酒井さんが柔道を全くやったことがない、テレビでしか柔道をみたことがない女性だったとします。突然「柔道しませんか」って誘われて柔道をしますか?

酒井:それはきついですね(苦笑)。

佐々木:そうですよね。関心があっても、「痛そう」とか、「怪我したらどうしよう」、「柔道着がない」、「着替えが大変」、「変な筋肉がつきそう」とか、いろいろありますよね。

酒井:はい。

佐々木:だから、私たちは「アンチエイジングコース」っていうものを作って、日頃の運動不足を解消できて、美容にもいいというコースを作ったのです。柔道着はいりません。ジャージで参加できてます。それに痛くない。誰かに投げられるとか、そういう痛みを伴う動きをなくしました。柔道をベースにしたとにかく楽しい運動プログラムをつくったんです。特に人気があったのは、男性の黒帯の経験者を投げるメニューでした。柔道経験者にはなんでもないことでも、普通に生活していて、女性が男性を投げるってことはないですよね。

でも、女性が、男性を投げることができて、しかもそれが美容によくて、痛くもないし、柔道着に着替えなくてもいい。さらに、すでに女性で参加している方がいて、楽しそうにやってる、ってなったら「じゃあ、自分も一度はやってみようか」ってなりませんか?

酒井:なります(笑)。

佐々木:柔道の経験者には、「誰もが「乱取りをしたい。勝ちたい」と思っている」という先入観が多いように思います。でも「乱取りをしたいと思ってないけど柔道してみたい」とか「勝ちたいと思ってないけど柔道してみたい」って方がいるんです。この先入観をなくすことが大事だと思います。

この前の稽古では、女子同士が「この動きはヒップアップにイイね!」と笑いながら体を動かしてました。「柔道はテレビで見たことはあるけど、まさか自分がやることになるなんて今でも信じられない」と話していましたね。

アンチエイジングコースから黒帯へ

酒井:アンチエイジングコースは、未経験の女性だけですか。

佐々木:いいえ、未経験の男性も参加してます。女性が増えたら、やっぱり未経験の男性も増えました。あとは小さいお子さんも参加してます。お母さんと小学校低学年のお子さんが一緒に畳の上で運動する。「チカラ強くなったね」と親子が交流する場にもなっています。乱取り中心の「選手コース」というプログラムがあるのですが、家族で月1回の定例稽古にきて、お父さんは「選手コース」、お母さんとお子さんは「アンチエイジングコース」で運動するというかたちもありますね。

酒井:全部で何種類のコースがあるのですか。

佐々木:三つあります。今話した乱取り中心の「選手コース」、女性や柔道未経験者向けの「アンチエイジングコース」、そして「アンチエイジングコース」ではじめて柔道にふれて、本格的に柔道したいと思った人向けの「目指せ黒帯コース」です。

酒井:「アンチエイジングコース」からステップアップするコースが用意されているのですね。

佐々木:はい。アンチエイジングコースではじめて柔道をした方で、黒帯を目指して月次試験に挑む方がでてきました。将来、名古屋介護系柔道部から黒帯を取る人がたくさんでてくれるとイイな、と思ってます。

酒井:大人で柔道を始めるのは少ないと言われていますが、アンチエイジングコースというハードルが低い入り口を用意して、未経験者の女性に参加していただく。そうすると男性も増えていく。そこに本格的に柔道を学びたい人向けのコースを作り、柔道をする人を増やしていくという方法は、柔道人口が増えていくための方法としてとても参考になりました。

多様性こそ柔道の真髄

佐々木:草柔道を求めて2年間の試行錯誤の末にできたかたちです。あと、年に2回、夏休みと冬休みに各1日ですが、障害のある方向けに柔道体験教室「チャレンジド柔道あそび」も開催しています。

酒井:介護関係の柔道経験者からはじまり、未経験者の女性、それにつられてやってきた経験者、未経験者の男性、さらにお母さんやお子さん、障害のある方など、本当に多様な人々が集うクラブになっているのですね。

佐々木:これだけ多様な人々が同じ空間にいることは、他のスポーツでも、なかなかないのではないでしょうか。私はこの多様性こそが柔道の真髄というか、柔道が本来もっている力なのではないかと思っています。そしてそれが名古屋介護系柔道部が目指している「草柔道」であり、生涯スポーツとしての柔道のかたちなんです。

酒井:それでは最後に改めて伺いますが、それだけ多様な人々で賑わうクラブをつくるコツはなんでしょうか。

佐々木:楽しいってことだと思います。女子部員がSNSにアップした投稿をみて、その女子会員の友達が見学にくる、っていうパターンが多いのですが、どんな投稿だと思います? 「強くなる」とか「ダイエットにイイ」とかでもない。「楽しいから一緒に行こうよ」という、ちょっと押しつけ的な誘いでもない。もっと直感的な「楽しい!!」なんです。

酒井:素晴らしいお話をありがとうございました。日本では柔道をする大人が少ない、特に成年の女性は極めて少ないと聞きますが、名古屋介護系柔道部の考え方や取り組みは大きなヒントになると思いました。

profile: 佐々木雄一郎(ささきゆういちろう)
1976年生まれ。柔道二段。名古屋介護系柔道部、執行部員(広報担当)。介護支援専門員、介護福祉士。老人ホーム等を運営する(株)夢幻、取締役。名古屋市守山区居宅支援事業者連絡会幹事長。

名古屋介護系柔道部について
愛知県名古屋市内の介護・福祉・医療関係に勤務する人を中心に構成された社会人柔道サークル。部員は2017年6月現在で105名(男性69名:女性36名)。内訳は、職種的には、ホームヘルパー、老人ホーム、デイサービス、訪問入浴、福祉タクシー、薬局、高校教員、美容師、設計事務所など。資格的には、介護福祉士、社会福祉士、看護師、薬剤師、歯科医師、柔道整復師、鍼灸マッサージ師、建築士など。詳細はWEBサイトを参照。

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