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親として悩み、指導者として見出したこと-発達障害のある子供と向かい合って- 後藤宏幸氏(河芸柔道クラブ指導員)

2025年3月2日(日)、名古屋介護系柔道部道場(名古屋市)にて、発達が気になる子が輝く柔道&スポーツの指導法ワークショップが開催され、河芸柔道クラブの指導員、後藤宏幸氏が発達障害と柔道についてお話くださいました。参加者の皆様から「お話を聞くことができて、とてもよかった」という声が数多く寄せられましたので、後藤宏幸氏にご依頼し、講演録を掲載させていただく運びとなりました。親として子供と向かい合い、その葛藤から見出したことが、柔道やスポーツの指導に役立っているそうです。ぜひご覧ください。

二人の息子

三重県津市の河芸柔道クラブの指導員、後藤宏幸と申します。よろしくお願いします。

まず、私の家族を紹介します。高校生の長男がADHD(注意欠如・多動症)で、河芸柔道クラブと中学の部活動で柔道をしていましたが、今はしていません。中学生の次男がADHDでLD、学習障害の傾向があり、今でも部活動で柔道をしています。

私の妹が知的障害があったこともあり、三重スペシャルオリンピックス日本・三重の陸上競技と繋がり、そこでコーチをしていたので、自閉症や発達障害の知識や指導の経験があり、「わが子の発達や発育に偏りがあるのでは」と早い段階で気づくことができました。

幼稚園の頃にはADHDであるという診断を受けていました。

私が息子2人に小さい頃から伝えていたことは「発達障害は脳の構造上の問題なので、自分の努力だけではどうすることもできないし、一生の問題になるので、自分の障害の特性を理解してうまくつきあっていかないといけない」と言ってきました。

長男の忘れられない行動

長男は口や手が多動で、無意識に水筒を振り回して友達にあててしまっても、自分では「水筒を当てた」という認識がなく、謝ることもできませんでした。

「特別支援学級に入れば、サポートの先生も付いてもらえるし、「何らかの障害がある」と気づいてもらえるヘルプマークのような役割になるかな」と思い、長男と話をしたら、長男も自分の特性などをある程度理解しているようで、スムーズに特別支援学級にはいりました。

当時の長男の行動で今でも忘れられないのは、スーパーに買い物を行ったとき、長男が手をだして棚にある商品を落としていったので、「どうしてそんなことをしたの?」と聞いたら、「手が勝手にしたことで僕は何もしていない」と言いました。

それを聞いたとき、正直驚いたし、「何を言っているのだろう」と思い、理解できませんでした。そういう特性があるのなら親も真剣に発達障害と向き合って、この子が将来少しでも生活で苦労しないようにサポートしていきたいと思いました。

次男は「普通の子」を演じていた

次男は友達とのトラブルはあまりなく、友達付き合いはうまい方だったので、特別支援学級は見送ったのですが、別の問題がでてきてしまいました。

そのときは気づいていなかったのですが、次男は自分の本当に言いたいことがうまく言葉にすることができず、普通の子を演じて生活していたようでした。本人が苦しんで生活していることに気づくことができたので、特別支援学級に入りました。

発達障害があり、本人も気づいていないことも、周りの人が小さなサインに気づいて、二次障害が起こらないように気をつけることができます。これは今、私が障害がある人に指導するときに心がけていることです。

おしゃべりを制止したら「話をすることも許されない人間なのか」と言われて

長男は小学生のときはすごくおしゃべりでした。会話をするというよりは、自分の興味のあることや空想の話をよくしていました。

私も1人の弱い人間です。仕事のトラブルや人間関係で少し落ち込んだときに、長男に対して「少し静かにして欲しい」と言いました。

すると長男は「僕はお父さんに話を聞いてほしいだけなのに、話をすることも許されない人間なのか、生まれてくる意味はなかったのか、生まれてこないほうが良かったのか」と言われてしまいました。

発達障害の特性の1つで、考え方が0か100になってしまう人もいるようで、まさに長男はその1人でした。「そんなつもりじゃないのにどうすればいいのだろう」と心が苦しくなりました。

あるとき、「そんなにしゃべったら指導やな」とふと私の口から出ました。「そうか指導か」と思い、しゃべり過ぎの口をイメージして指をパクパクさせながら「指導!」とやりました。

すると長男はにこっと笑い、少しの間おしゃべりが止まりました。ほんの少しでしたが、否定的な言葉を使わずに伝えることができたのはすごく良かったです。

その後は長男の方から「僕、そろそろ指導かな」と言ってくるようになり、「今、合議中かな」と私が言うと、長男は「それはそろそろやばいな」と言ってくるようになり、その後、指導をいれると、取り消しをしてくるようになり、面白おかしく「しゃべりすぎだよ」と言うことが伝えることができるようになりました。

この経験で、伝え方を工夫することで、伝わり方や相手の感じ方が変わることに気づきました。これも障害があるなしにかかわらず、子供たちを指導するとき気を付けていることです。

毎日学校を遅刻。あのとき「怠けているのか」「ふざけているのか」と言っていたら・・

また次男の話に戻りますが、小学生のとき、朝まったく起きることができず、毎日学校を遅刻して行っていました。10時や11時に行くのも当たり前で、給食を食べに行っているだけの日もたくさんありました。

最初のうちは「頑張って起きような」とか「遅刻しないように行こうな」と言っていましたが、ふとしたときに「これって本当に次男のためだけに言っているのかな」と疑問を持つようになりました。

よく考えてみると、半分くらい、いやそれ以上に自分が周りに人から「だらしない親、 躾のできない親」と思われるのが嫌なだけなのかな、と感じるようになりました。

発達障害と真剣に向き合っていくためには、他人に何か言われても、親が「子供を信じて守っていかないといけないのかな」と思いました。

あるとき次男が「僕はなんでこんなに朝起きれないのだろう。起きれたら学校遅刻せずに行けるのに」と言っていたことがありました。

その言葉を信じて、「今日は10時に学校に行ったよ」と言ってきた次男に対して、私は「すごいな。昨日より早く行けたね」と言いました。

「明日からは登校班に間にあうように行こうな」と、ものすごく言いたかったのですが、言いませんでした。遅刻はしているものの、休むことせずに、毎日学校にいくのは、それはそれで勇気のいることだと思ったので、ただただ褒めていました。

その後、「発達障害があり、睡眠がうまくいかない人用の新しい薬が出たので試してみますか」と主治医の勧めもあり、服薬したら、嘘のように睡眠が改善され、ほぼ毎日遅刻せずに登校できるようになりました。

あのとき「怠けているのか」とか「ふざけているのか」と次男に言っていたら、睡眠が改善されても学校に行けていなかったかもしれません。

発達障害があると、こだわりが強かったり、他人の行動で許せないポイントが私たちと少し違ったりする時もありますが、特性と向き合いながら一生懸命生活しているわけなので、信じることで信頼関係ができることを知りました。

目から情報が入るように

次は、私が子供たちを指導しているときに心がけていることを紹介します。これも発達障害のある人だけではなく、幼児に対しても効果があるかなと思っています。

指示を出すときに、言葉で足の位置や手の位置を言っても理解しにくい場合もあるので、目から情報が入るように、「先生の足の形を見て」とか「隣の子の足の形を見て」と言ったり、生徒の前で私が鏡に映ったように見本を見せて「真似をしてみて」と言うようにしています。

不正解がなくなるように

「手や足の位置が違う」と言ってしまうと、「不正解だ」と言っていることになってしまいます。発達障害のある人は、嫌な気持ちや不安な気持ちが私たち以上に心に残ってしまう特性を持っている人もいるし、できない自分を悔しがって、その気持ちをうまくコントロールできずにパニックになってしまう場合があります。

なので、足の形や手の形を見せて「真似してみて」と言います。「自分が思うように真似できたらそれでいいよ」と伝えます。そうすると不正解がなくなり、本人の自信に繋がっていくと思っています。

練習から離れる時間を設ける

集中力が続かなかったり、他のことが気になって練習が身にはいらない人には、時間で区切って「練習から離れてもいいよ」と伝えます。そのときも、言葉だけで伝えるのではなく、時計を使って目から情報を入れるようにしています。

道場にあるのはアナログ時計なので、例えば「長い針が今12にあるけど、2になったら練習に戻るよ。約束できる?」という感じで伝えています。

遊びに夢中になって約束を忘れてしまいそうな子には、「今、1になったよ。時計確認してね」という感じで、常に目から情報をいれるようにしています。

「できない子」ではなく「時間がかかる子」

なかなか上達しない子もいますが、「できない子」と考えるのではなく、習得するまでに時間がかかるだけだと思っています。

陸上競技だと位置について「ヨーイ、スタート!」でゴールをめざすわけですが、それが1人でできるようになるのに1年とか2年かかる子もいます。時間はかかりますが、みんな確実に上達していきます。

「障害がある人は受け入れることができない」を言われた

保護者から聞いた話ですが、障害のある息子がスポーツをする場所が学校の体育ぐらいしかないので、「スポーツジムに行かせよう」と思ったけど、「障害のある人は受け入れることができない」と言われた。「それなら親子で入会して、親が付き添いをします」と伝えても、入会を断られたそうです。

「障害を持った人が参加できる団体があるのは非常にうれしい」と感謝の言葉をかけて頂きました。

最後に

いろいろお話させて頂きましたが、私も初めからわが子を理解できていたわけではありません。

病院に連れていけば「静かにさせて下さい」と言われ、食事にいけば走りまわる息子は周りの人から白い目でみられ、お恥ずかしい話ですが「なぜわが子が障害者なのか。普通の子が良かったな」と何度も思ったことがあります。

保護者と指導者、この2つの立場を有効に使って、障害を持った人が 1人でも多くスポーツを楽しみ、そして柔道を楽しんでもらえるように、この活動を続けて行きたいと思っています。

以上となります。御静聴ありがとうございました

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