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カナダのクリスマスでもらったもの~柔道を考える5つの視点~北米柔道訪問記(2)~

クリスマスキャンプ!

私のカナダ滞在中に2名の大学生柔道家(豊澤・佐々木)に二人の写真をお招きして、現地オンタリオ州柔道連盟主催のクリスマスキャンプに参加させて頂いた。クリスマスキャンプとは、オンタリオ州の18歳以下の強化選手を集めて、まさにクリスマスシーズンに開催されている3日間の合宿である。

今回の記事では、2人の「柔道プチ留学」体験を、事後課題として書いてもらったレポートから引用しつつ、ご紹介したい。

クリスマスキャンプの会場!

クリスマスキャンプでの発見1:練習スタイルの違い!

キャンプはトロント郊外のToronto Sports Complexで開催された。種々スポーツの国際大会にも使用される、総合スポーツ施設である。

参加者は、主に10代の強化選手たち。彼らのゼッケンにはCanadaの文字もあり、国際大会で戦っている選手も多いと見受けられた。メインインストラクターは、ブラジル代表選手として活躍したペドロ先生。2007年嘉納杯国際大会でも優勝されている。

マットを周回するランニングの後、エクササイズが始まる。準備運動にも、日本とは違った雰囲気が感じられた。

豊澤「四日間の計七回の練習の中で、日本で行われているような準備体操やその場で行う静的ストレッチが行われたのはたったの一回のみだった。 ~略~ 鬼ごっこなどのアクティブな運動や、足の振り上げなどの動きながら行う動的ストレッチなどを主に行った。これは私の主観だが、カナダで行ったウォーミングアップの方が日本で行っているウォーミングアップよりも体が温まると思う。」

カナダ・アメリカを通じて、ウォーミングアップとして鬼ごっこやボールを使ったゲームを行うことが多かった。楽しみながら身体を温めることができる工夫を感じた。その考え方は補強運動にも表れていた。

豊澤「日本では補強運動といえば腕立て伏せや腹筋、背筋などである。しかし、カナダでは三人一組になり二人が一人を引きずり回したり、騎馬戦をしたりなど、遊びの中の補強運動というように感じた。また、日本よりもトレーニングを楽しんでいるようにも思えた。私自身はトレーニングとはきついというイメージがあったが、遊びという要素が加わることで楽しむことができた。」

カナダでのウォーミングアップ。日本とは違う点がたくさんありました!

次に投げ技の打ち込みを行うが、ここにも違いがある。

豊澤「日本で行う投げ技の打ち込みは、10本を複数回繰り返した後にスピード打ち込みや移動打ち込みと展開していくが、カナダでは相手に持たれた奥襟を切ってからの技や、組み際の技など、試合での場面を想定した打ち込みだった。」「相手が抵抗してくる実戦に合わせて必要とされるのが、カナダで行われているような場面を想定した打ち込みだと思う。日本でも場面を想定した打ち込みをしているチームもあるが、少数ではないだろうか。」

いわゆる、日本で一般的な、ひたすら同じ形・技を反復する打ち込みは行われない。多くは、豊澤さんが書いているような、実戦式の打ち込みであった。

日本の「形を身体に染み込ませ、どんな状況であっても、「自分の形」を体現できるよう練習する」という考え方と「相手に合わせ柔軟に対応する方法を学ぶ」というコンセプトの違いがあるように思われる。

クリスマスキャンプでの発見2:練習時間について

練習時間についても2人は書いてくれた。

佐々木「クリスマスキャンプに参加して一番驚いたことはその練習時間の短さである。カナダのゼッケンをつけている中高生が集まった練習が1日に4時間しかない。そして1日だけ来ようが4日間とも来ようが自由であり、来なかったことや遅れてきたことについて咎める人は誰もいない。日本の合宿と比べると考えられない練習体系である。」

「日本の合宿といえば、合計で8~10時間ほどの練習を5日間、またはそれ以上の期間、毎日行うという練習体系である。 ~略~ 4時間だけの練習は疲れ過ぎることがないので、次の日の練習にもあまり悪い影響はないし、「もっとやりたかった」と思える。ゆえにその次の日の稽古にも自主的、主体的に参加していけるのである。「柔道をしたい」と思わせる方法として短い練習時間はとても効果的であると感じた。」

今回の合宿は「クリスマスキャンプ」であり、いわゆる競技力向上に主眼を置いたトレーニングというよりも、1年の最後にみんなで集まるレクリエーション的な要素が強かったため、そこまでハードなメニューは組まれなかったと思われる。2日目の午後は、栄養学の座学も取り入れられていたようだ。また、小学生のクラスも同時並行で実施されており、ゲームも行われていた。ただ、連盟公式の練習会自体が、レクリエーション的な要素を持つことは日本では珍しいのではないだろうか。

クリスマスキャンプでの発見3:柔道スタイルの違い

柔道のスタイル自体はどうだろうか?

「技やスキル(一連の動き)を練習する時に両方の組み手で練習するのである。受けた感触としては左右のレベルの差は感じられず、日常的に両方とも練習していることが分かった。そして特に、右組のまま左の内股を掛けてきたときは本当に驚いた。投げられはしなかったものの、1つの技として完成されていた。」

「私がカナダの柔道スタイルを一言で表すとしたら「自由」である。右組みで左の技をかけたり、前襟と袖にこだわらない組手をしたりと、日本ではみられない型破りなスタイルだった。もちろん日本人も右組みで左の技をかけることもある。例えば足払いや袖釣り込み腰などだ。しかし、カナダの柔道スタイルは右組みで左の大内刈りもかける。このテクニックを使用する選手は日本ではほとんどみられない。驚いたことに、投げられはしないものの私は十分に崩された。その逆技からの連絡技で私は何度か投げられた。」

右組で、左組の足さばきの技をかける。私もそのような発想はなかった。もちろんその技で、完全に相手を投げることはできない。しかし、2人が指摘している通り「崩す」という意味では十分効果的な技となっている。

また、これはAnnexのメンバーが語っていたことだが、左右も含めていろいろな技をバランスよく修得することが求められるという。1つの技にこだわることは、必ずしもいいこととはされない。「1つの『絶対的得意』を作り上げる」ことがよしとされる日本との違いである。

クリスマスキャンプでの発見4:礼儀の在り方

礼儀の在り方についてはどうだろうか。

豊澤「私は今回のキャンプに参加するまで、日本以外の国は礼法の指導にそこまで力を入れていないと思っていた。先入観である。しかし、予想に反し礼法はしっかりと実践されていた。特に印象に残っているのは、先生が中央に集めて説明をする前後に、受けの生徒との礼を一回一回丁寧に行っていたことだ。あそこまで一回一回丁寧に礼をする指導者は日本ではあまり見られない。」

これは私も驚いたことだ。誰かと組んで何かを行うとき、必ず礼を行う。相手へ敬意を表すということが強く意識されていると感じた。ひとつには、畳の上は特別な場であり、柔道は相手への敬意の表し方を学ぶ場所として意識されている点にあるだろう。日本では、「畳」も「礼」も自国文化の中であるがゆえに、「特別なもの」として意識されている度合は、海外の方が強いと感じられた。なお、練習前後の礼は基本的に立礼であり、座る文化がないカナダ式であるらしい。ある程度、形式上のアレンジはされている。

クリスマスキャンプでの発見5:文化の違い

前回記事の冒頭で記した、トロントの多様性についても、2人が感じたところを見てみたい。

豊澤「トロントは移民が多いためか、英語ができない人への対応もあたたかく感じた。英語を話せない人がいて当然というような雰囲気は、私にとってコミュニケーションが取りやすい環境だったと思う。」

佐々木「現地の人々はみんな話をよく聞こうとしてくれる。その要因は移民国家であるからだという話を聞くことができた。今では英語を話せる移民の人々もかつては話せない人が大半であり、今までにたくさんの苦労と努力をしてきた。そしてかつてのカナダ人もそのような人々を拒絶することなく受け入れた。現地の人々は昔から様々な人種と暮らしているから、また、かつては自分たちも英語を話すことができなかったからこそ、英語が話せることを当たり前だと考えず、あまり話せない人に対しても寛容的になれるのである。」

「ショッピングモールのフードコートであった。『移民が多いと聞いたけど、どうせみんな白人だろうし見分けなんかつかないよな』と高を括っていた私は、そこにいる多種多様な人種の人々を前に驚きを隠せなかった。ヨーロッパ系、アフリカ系、そしてアジア系の様々な国の人々が、一目でこんなに目に映ることは今までになかった。そして特におもしろいと感じたのは、様々な言語が聞こえてくるところである。英語や仏語はもちろん、中国語や韓国語、日本語、そして聞いたこともないような言語が周りを飛び交っている。とても不思議な感覚であった。」

「興味深かった体験としてこのようなものがある。初めて会った現地の人と会話した時に『トロント出身ですか。』と聞かれたのである。明らかにアジア系の私にそんな質問をしてくることが日本人である私からすれば可笑しく、思わず笑ってしまった。しかし聞いてみると現地ではよくある話なのだそう。それを聞いて、違うのであれば住んでいる国を聞いたり、留学か観光かを聞いたりするのが一般的らしい。また、現地に住んでいる日本人にも英語で話しかけられる。名乗ったり、日本語で話す姿を見られたりして初めて日本人だと認識されるのである。」

各人が、目の前にいる人の文化的背景が異なることを「当たり前」と認識している。その点で、日本とは全く正反対であるにもかかわらず、その中では、人々の振る舞いが驚くほど日本人のそれに似通っている。仕草や人との距離感、ちょっとだけ本音を言わず当たり障りない言葉で対応するところ。摩擦や衝突をさけるという、日本と共通の感性を感じることができた。

トロントで感じられる「多様性」は人種・ナショナリティに限らない。

佐々木「もう一つ感じたのは、この街で感じられる障がいのある人々との共存についてである。Annexのメンバーにも数名いたと後日聞いて驚いたのだが、それほど自然に溶け込んで一緒に柔道を楽しんでいるのは、私としてはとても新鮮で素晴らしいと思った。クリスマスキャンプを行ったToronto Pan Am Sports Centreでも障がいのある方をお見掛けしたが、周りの人々も特に珍しいといった様子もなく、その人が困っていればみんなは自然に助け、共に運動を楽しんでいた。この素晴らしい光景を日本のスポーツ施設でも見たいと思ったし、心身の障がいが社会での障害となっていないカナダの文化を見習わなければならないと強く感じた。

障がいを持った人が当たり前に柔道にスポーツにアクセスできる。街中にも専用のバスがいつも走っている。カナダは、ユニバーサルな(誰でも柔道にアクセスできる)柔道のコミュニティを実現している、その一つのモデルと言えるかもしれない。

クリスマスキャンプの前に訪れたAnnex Judo Academyでの写真。カナダでは人種の違いや障がいの有無など、様々な背景を持つ人たちが一緒に柔道ができる環境が整っている。

さいごに 〜柔道を通じて築かれる絆〜

引率としてキャンプに帯同したのだが、参加者2人が現地の若者と仲良くなっていく様子は、本当に自然で素敵だ。実際に肌と肌を合わせて練習できたことで、人間同士の距離が一気に縮まっていく様子を見ることができた。

写真にある通り、最終日には道着の交換をし、肩を組み合って別れを惜しむ姿が印象的だった。

次回は、米国で訪問した柔道クラブのレポートをお送りしたい。

【筆者プロフィール】長﨑 徹眞(ながさき てつま)

京都大学文学部及び教育学部卒。浄土宗教師。講道館柔道弐段。京大柔道部にて、高専柔道の流れを汲む七大柔道を経験。会計系コンサルティングファームにて企業戦略立案・新規事業立案・M&A支援業務に従事後、北米に約9か月間滞在。渡航前にjudo3.0代表酒井に出会い、柔道界への恩返しと日本の教育に貢献することを決意しjudo3.0に参画。当団体では、主に海外からの柔道家受入、FORUM企画、グループ内理念共有プロジェクトで活動中。

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