「安全で優しい柔道を学ぶ~投げ技マイスター講習会」レポート @兵庫県立文化体育館(2017年6月25日)

こんにちは!編集部です。この記事をご覧になっている皆さまは柔道に関わっている方が多いと思います。その中で、柔道の指導法について研究している研究者がいるのは、どのくらいの方が知っているでしょうか?正直な話、あまり多くないかも知れません。では、研究者が研究している柔道の効果的な指導法とは、どのようなものなのでしょうか?

ということで今回は、2017年6月25日に兵庫県立文化体育館にて、judo3.0の信川氏が兵庫教育大学で柔道指導法の研究をされている有山篤利准教授をお招きして開催した講演の様子をお届けします(イベントの詳細はこちらのfacebookイベントページを)。レポートは今回の講演に参加されたフリーライターの治部様に書いていただきました!

有山篤利先生

投げ技マイスター

【プログラム】
1■13:10~13:20・・・自己紹介  参加者 : 女性7名 男性10名

2■13:20~15:00・・・実技 ~投げ技マイスター使用~
3■15:15~16:10・・・講義
4■16:10~16:45・・・意見交換・質疑応答

0.はじめに

今回の講師、有山篤利先生は、何度も「通常の稽古とは全く違います」と繰り返しておられました。「安全でやさしい柔道」を広める為に「投げ技マイスター」(特許取得)を開発し、現在も学生などに「安全で優しい柔道」の指導を行っておられる有山先生の講習会をレポートします。

1.自己紹介

参加者は、東は東京から西は四国まで、日本各地から集まった17名(写真)。親子で参加された方や、「今日初めて道着を着ます」と、道場の入り口でためらっておられた“柔道初体験”の女性、大学で女子学生対象に柔道を指導されておられる外国籍の指導者など、実にバラエティ豊かでした。畳の上で半円を描いて座り、簡単に自己紹介を済ませたら早速スタート!

2. 実技

2-1「柔道を始める前に」

冒頭の指導が、実は一番印象的でした。

「すぐれた運動指導というのは、子どもにも初心者にも誰にでも分かる言葉を使うこと

柔道特有の”引く”や”崩す”という言葉をいざ実践しようとしても良く分かりませんが、「崩れる感じ」って?→かかとに重心が移ってると不安定だよね?

「素早く引く」って?→引く瞬間に強く握ろう。

そういう事を、一つひとつ普通の言葉を使って、頭と体で理解出来るように説明されると、とても分かりやすい。2人一組になって、「斜め上に引く」「力をうまく伝える」「膝を使う」など、動きを細かく分けて実践しました。

矢印マイスター?!

2-2「投げ技マイスター」

ここで、ずっと気になっていた「投げ技マイスター」(以下:マイスター)が登場。グリップが低反発素材になっていて、滑りにくく、握りやすい。直線部分は「取り」(=技をかける方)が持ち、ハンドルの様な部分は「受け」(=技を受ける方)が持ちます。

「マイスター」を挟んで対面すると、なんだか不思議な気持ちになりますが、「人と対面ることを、障害をお持ちのお子さんがとても喜んだ、という報告もありました」と、有山先生。「人と向き合う」ことが意外な面で好影響を与えるのでしょうか。今回は、障害者への柔道の取り組みに関心を持っている参加者も数多くいたので、今後の活動に活かせるかもしれないと思いました。

不思議なことに、組み合わないというだけで、安心感が生まれます。しゃがんだ状態の低い位置からも練習出来るので、転がる事への恐怖心も生まれません。

足さばきの感覚を掴むための「秘密兵器」も登場(写真)。「相手の懐に入る」感覚が掴めました。相手を投げる方向を知る為に、有山先生が段ボールで作られた「矢印マイスター」(という名前ではありません・笑)(写真)も、初心者には理解しやすかったです。

「マイスター」を使って「取り」が少しひねりを加えるだけで、「受け」は簡単に崩れます。左右対称なので、左右どちらの受け身も練習可能。継ぎ足で前に出れば「小内刈り」「大内刈り」の練習に、90度体を開けば「支え釣り込み」、歩み足で出れば「大外刈り」、足を踏み換えて「大腰」「内股」「払い腰」。

支え釣り込み?内股??こんな感じ?    「それ、体落としですね(笑)」

2-3「武道の動きの原理」

 テンポ良く、一通り技を掛け合いながら、「初心者と熟練者の違い」「投げ技の運動構造」などを、スクリーンに映し出した映像や、実際に投げ込みながら解説。「上手な受け身はこう」「無理があると、こうなって、危ない」「崩すための動きは、この4段階」などなど、何となくやっていたことが、理論と結び付いて、「ふむふむ」とうなずけました。

3.講義

 空調が効いている筈なのに汗だくになっていたところで、ひとまずスクリーンに集中。

3-1「日本独自の文化について」

相手の力を利用して技をかける柔道を、他国の力をうまく融合させて自国の糧にする日本の文化と結び付けた講義をされました。「礼」で相手から目をそらす日本と、「握手」をして相手に力を伝える西洋との違いなど、今回はドイツ国籍の指導者が参加していたこともあり、日本と海外の考え方の違いについての考察も出来、「国際柔道」の持つ一つの顔だな、と感じられました。

3-2「礼法の指導」

 有山先生の講義では、乱取りで1本を取っても、技のかけかたが美しくなければ、点は入らず、倒れても受け身が美しければ、加点するそうです。「競技柔道ではなく、日本人の美意識に結び付いた、礼法に沿った柔道」を重視するということでしょうか。実際に有山先生の生徒(大学生)も参加されていて、「投げられる時は、素直に投げられるようにしています」と、コメントされておられました。

3-3「武道の動きを学ぶ」

 そして、参加者の目を釘付けにしたのが、「竹刀を持たない剣道指導(動画)」でした。

剣道未経験の中学生に、「間合いを取る」「相手の動きを読む」「相手の動きに合わせる」など、竹刀を持たない「感覚運動」プログラムを体験させると、プログラムの前後で見違える様な違いを見せたのです。

「どうしたら駆け引きが出来るかを、まず理解させる事が必要」というのは、柔道にも共通する点で、そのために“遊び”を取り入れた運動や、「マイスター」を使った動きを体感してから、技の取得に入るというのも一つの方法なのかもしれません。

4.意見交換

最後は、円になっての意見交換です。「柔道の駆け引き」を学ぶためにはどうしたら良いか? それぞれの道場で取り組んでおられる試みなどを披露し合いました(動画)。円になって手を繋ぎ、目を閉じて引っ張り合いっこしたり(体幹運動)、互いに足を前後させて、タイミングを計って払ったり(足払いの練習)、「今度うちでもやってみます!」「これは子どもが喜びそう!」と、話が尽きない様相でしたが、ここでタイムアウト。4時間の充実した講習会が幕を閉じました。

さいごに:感想

今回の講習会の主催者・信川友日子さんは、勝敗が価値を左右する柔道環境や、信頼関係が成り立たない人間関係に『柔道アレルギー(本人談)』を発症したそうです。「柔道は好きなのに、柔道が嫌いになってしまう」。しかし、「自分の心や身体に向き合い、人と繋がれる」柔道がやっぱり好きだから、「柔道に恩返しがしたい」と、この講習会を企画されました。SNSを通じて何度も「誰でも楽しく、気軽に柔道に取り組める環境を作りたい!」と、熱いメッセージを送って下さり、そんな熱意と、有山先生の指導法に惹かれたメンバーが日本各地から集りました。

自分自身、小学生を主とする道場で、子どもに混じって稽古させて頂いていますが、大人になってから柔道を始める人が、今日の様に気軽に道着を着て、気軽に集まれる場所がもっとあれば良いのになと、常に感じています。柔道は、“競技”であり“スポーツ”であり、“武芸”でもあります。どこに主軸を置いたとしても、根底に「楽しい」という気持ちを持ちつつ、地域や国を問わず、それぞれの状況に応じた環境で、「道着を着れば、どこでも誰とでも畳に立って時間を共有する」ことが叶えば良いのにな、と改めて感じた一日でした。

本当は、書き尽くせない程の項目があったのですが、ワークショップの様子の動画などをこの記事の末尾に引用したので、ぜひそちらもご覧下さい。有山先生と信川さんを始め、一緒に参加した皆さん、本当に今日はありがとうございました。

講演会の様子が分かるムービー一覧

【2分】受身が上手か否かは音でわかる!?

【13分】投げ技マイスターから学ぶ「崩れる感覚と崩すコツ」

【1分】柔道の柔とは?

【3分】柔道の楽しみ方〜女性が男性に勝つ。白帯が黒帯に勝つ。駆け引きの楽しみ方〜

【2分20秒】子供から「勝たないかん」を外してあげたほうがいい

安全で優しい柔道を学ぶ@神戸信川友日子先生主催、judo3.0後援により、兵庫教育大学の有山先生を講師にお招きして神戸で開催されたワークショップに参加してきました😊以前から気になっていた投げ技マイスターの使用方法や力に頼らず崩しを意…

ユニバーサル柔道アカデミーさんの投稿 2017年6月25日

【講師プロフィール】
有山 篤利(アリヤマ アツトシ)

柔道や剣道などの武道は、単にスポーツと言うだけではなく、我が国の運動文化という側面をあわせもっています。武道に継承されている「柔の理」や「柔よく剛を制す」という考え方と、日本人の美意識や行動様式の関連を探求することで、運動文化としての武道を明らかにしたいと思っています。具体的には、①我が国の芸道と「柔の原理」との関連、②日本人の理想とする振る舞いや言動と「柔の原理」との関連、③「柔よく剛を制す」動きの変容と柔道のスポーツ化に関する検討、④武道を自国の運動文化として位置づけた体育の学習内容の再構成、⑤「我が国固有の動き」を学ぶ運動学習プログラムの作成及び指導教具の開発が現在の研究課題となっています。 (兵庫教育大学HPより)

【開催者プロフィール】
信川 友日子(ノブカワ ユカコ)

柔道家・ブラジリアン柔術家。健康運動指導士。兵庫県神戸市生まれ。関西大学 人間健康学部卒。専攻は社会体育と教育。講道館柔道参段。社会人からはじめたブラジリアン柔術で、老若男女が柔術を楽しんでいる様子に衝撃を受け、柔道の課題と可能性を再発見。恵まれない家庭環境にいる子ども、シングルマザーや障害のある子どもや大人など、困難な状況にある人々が社会とつながる「居場所」としての柔道、「福祉」としての柔道をカタチにするため、judo3.0に参画。現在は、女性が参加しやすい柔道のカタチ、ブラジリアン柔術からみた柔道の改善点、という視点から問題提起している。

【レポータープロフィール】
治部 美和(ジブ ミワ)

フリーライター。プラハ在住時に、長男が通っていた英国系のインタースクールに”JUDO CLUB”があったのが、柔道との出会い。帰国後、長男・次男を地元の道場に入門させたものの、いつの間にか自分も夢中に。フランスで発行されている日本語新聞「OVNI」にて「柔道特集」を企画・執筆。目標は「投げた子が喜ぶ受身を取れるようになる」ことと、「次に海外に移り住んだ時に、子どもらと道着を持って地元の道場で稽古をする」こと。現在滋賀県立武道館の「柔道教室」にて、師範の元で柔道の魅力拡大すべく「丁稚奉公」中。

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