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なぜ発達障害のある子どもに柔道を教えるクラブを創ったのか?(特集「ゆにじゅ〜」と発達障害 第1回)

概要
  • タイトル:「なぜ発達障害のある子どもに柔道を教えるクラブを創ったのか?既存のクラブの限界と柔道の新しい可能性」
  • ユニバーサル柔道アカデミー  長野敏秀さま
  • 2016年9月17,18日に開催された第1回フォーラムJUDO3.0の講演録です。
  • 前半に講演で用いられたスライド、後半に講演録が掲載されております。
  • 講演録作成:小崎良輔さま

講演スライド

講演スライド(1)

講演スライド(2)

講演スライド(3)

講演スライド(4)(終)

講演録

自己紹介

こんにちは。昨日から多くの方に「期待しています。」という声をいただいており、ハードルが上がったなと感じており、少し緊張気味です。まず、大前提として、ユニバーサル柔道アカデミーは始めて1年くらいです。もともとは私、既存の柔道会で指導者を務めており、そこでは、強い選手を作ることを中心にした指導をしていました。

まず、現在の柔道クラブを設立するに至った経緯を説明して、活動の内容、そして成果的なものを紹介していこうと思います。今回のプレゼンテーションの題名は「柔道のユニバーサルデザイン化を目指して」です。 まず、自己紹介をさせていただきます。

私は、愛媛県の四国中央市出身で現在43歳。柔道は小学校二年生から、祖父の勧めで地元の柔道会で始めました。多くの道場がそうであったと思いますが、いわゆる「根性、根性」といったような教え方の道場でありました。地元の中学、高校も地元の県立高校に進み、大学も愛媛県の松山大学、そして就職も地元の市役所ということで、これまで愛媛県から全く出ていないということになります。

大学を卒業した後、すぐに地元の四国中央市に戻り、市役所に勤めながら地元の柔道会で指導者として活動していましたが、平成27年にユニバーサル柔道アカデミーを設立し新たな活動をはじめました。その他、愛媛県柔道協会の理事、強化育成委員、週末は松山大学柔道部のコーチも務めています。家族は妻と娘2人の4人家族であります。

私の原動力は、多くの方に共通しているかもしれませんが、今も昔も、おそらくこれからも、私を成長させてくれた柔道への恩返しです。これが私の活動の大前提です。特に、大学時代に柔道を通じて出逢った人間関係や、培ったものは、私の人生の大きな糧になっています。

柔道教育を見直すきっかけ

大学卒業後の柔道指導での目標は、柔道を通じた子どもたちの健全育成と強い選手とチームの育成でした。強い選手を育成すれば、健全育成にもなるだろうと、この2つはイコールで繋がっているだろうと考えていました。 がむしゃらに歩んだ20年間でした。今日お越しの先生方の中にも、連携を取り合同練習をさせていただいた機会もありました。また、全国大会で活躍するなど優秀な選手にも恵まれました。

しかし、たとえ選手として優秀な成績を残してきた子でも、中にはその後の人生が必ずしも幸せでない子もいる現状に気づきます。中学、高校で問題行動を起こして退学になったり、幼少時からの過度な練習によって選手生命が短くなったり、「柔道が嫌いで堪らなかった」という選手も中にはいて、大きなショックを覚えました。 「柔道は人間教育」ということで、全柔連が推進しています。

では、自分の道場はどうだったのだろうともう一回振り返ったとき、必ずしも今の指導が子どもたちの健全育成につながっていない!そして、道場全体が、やはり強い選手を優先した練習になっており「勝つ」ことが良いこと「負ける」ことが悪いことという指導をしていることに気づきます。 「勝ち」にしか価値を見出せない指導・・・それによって、続けることができない、ある意味こぼれ落ちていく子どもたちが出てきます。特に、発達に凸凹のある子達にとっては非常に窮屈な環境であり、この子達が柔道ができる場ではありませんでした。

新しいクラブの設立へ

そういったことに気づき、道場での稽古に違和感を感じながらも、何もできない自分に苛立ちを募らせながら、数ヶ月過ごしていましたが、いくつかの出来事をきっかけに、道場での改革を進めることを考えました。しかし、それを進めようとした時、道場の歴史の長さとこれまでの成果が大きく立ちはだかりました。その壁に立ち向かい、改革を進める道もありましたが、その改革の労力は新たな活動に使っていくことに方向転換をし「組織のための自分」との決別を決意しました。

新たな活動に向けて、まず行ったことは・・・ 「勝つこと」を一旦やめることです。 これをまずキーワードとして、その上で、私らしい柔道による社会貢献とは何かと考えた時に、生きにくさを感じている子どもたちに寄り添うような柔道が提供できないか、また、それと同時に、生きにくさを感じている子もそうでない子も一緒に柔道ができる環境が必要ではないか、それが「柔道のユニバーサルデザイン化」。これを目指すこととしました。 そんな思いを発信した結果、趣旨に賛同し集まってくれた人たちは、ほとんどが柔道指導者以外の人たちで、幼児教育の専門家やセラピストなど、さまざまな分野の人たちがスタッフとして集まってくれました。

活動は、まず幼児と低学年を中心に、毎週金曜日の週一回でスタートさせました。オープニングには、四国中央市のゆるキャラ「しこちゅ~」や、育てキャラクターの「ほっこりん」にも来ててもらい、福祉的なイメージを含む形で盛り上げてもらいました。 そして、活動内容は、愛媛県で既に行われていた発達障害児への柔道療育という先行事例でした。それを参考にしたとき、発達障害児への療育が、柔道の稽古にも有効であると感じました。

オープニングに向けては、障害の有無に関わらずみんなで楽しく柔道をしましょうとアナウンスをして募集を行いましたが、蓋を開けてみると、参加者の半分、もしくは半分以上の子どもたちが発達に何らかの凸凹を抱えていて、これによってこの取り組みの必要性と重要性を再認識いたしました。この取り組みを柱にするため、スタッフには「発達障害コミュニケーション初級指導員」の資格を取得してもらいました。その中の数名が中級、上級を目指して現在勉強中です。

プログラムの内容

それでは、日頃の練習メニューを紹介させていただきます。これはストレッチと体幹トレーニングです。なぜ体幹トレーニングを大切にするのかというと、発達に凸凹のある子達の特徴として、体幹が弱くて「ふにゃっ」としていることが多いからです。また、発達障害コミュニケーション指導員資格の受講の際に、遊び感覚での体幹トレーニングの工夫が必要であることを学びましたので、実際にトレーニングするときは、段階的に、遊び心を交えて指導をしています。

次です。この取り組みはすごく特徴的だと思います。「学びタイム」です。嘉納治五郎先生の「問答の時間」に該当します。主に寸劇を取り入れながら展開しています。だいたい1日15分くらい、日常の良い場面、悪い場面をスタッフが寸劇で表現し、子供達に感じたことを話してもらいます。子どもたちにはこの学びを通して良いことと悪いことを判断する力がアップして欲しいと思っています。また、コミュニケーション能力の向上にも役立つと思っています。まず、寸劇を交えると子どもたちが食いつきます。子どもたちに感想や考えを求める時も、「その意見は悪い」などと否定せず、なるべく許容することを念頭に行っています。

もう一つはコーディネーション遊びです。これはアスリート育成のためにドイツで開発されたものです。これを子どもたちの年齢に合わせて易しく楽しくなるよう改良して取り組んでいます。ラダーやバランスディスクなど、様々な道具を用いて運動調整力、バランス能力を鍛えています。この遊びを通じて柔道だけではなく運動自体が好きな子を作るのが狙いです。

次が柔道です。柔道は基本動作を大切にしています。柔道の基本動作を子どもたちに覚えてもらうことを、私たちがいかにうまく伝えるかという勉強の場にもなっています。例えば、「右から」と言ってもよく理解できない子どもが多いのが現状です。そういう時は、色のついたシールやその他のアイテムを利用して、工夫をしながら指導をしています。そうすることで私たちの指導力も成長していると感じています。

次がマッサージタイムです。練習の最後10分から15分くらいをマッサージに当てています。マッサージは親子同士だったり友達同士でやることで、リラックスの効果もありますし、ある意味親子のコミュニケーションの場になったりもします。いい意味でだらっとする時間を作っています。これが家に帰ってもあったら良いなと考えています。

もう一つが道場以外の場所での取り組みです。月に一回の親子参加の特別講座です。ペン字、陶芸、特殊積み木、英会話、子育て、料理などなど、様々な講座を開いています。 パパママ面談タイムというものも取り入れています。だいたい1家庭が3ヶ月に1回程度回ってくるくらいの頻度で行っています。その内容は月一回のスタッフ会議で共有し、支援策の検討や練習メニューの工夫を話し合います。 現在はステップアップして活動を週二回にしています。基本的な動作は金曜日に実施。それとは別に一般愛好者、経験者を対象に、年齢がバラバラの集団の練習日を設定しています。

先日、ひのまるキッズという大会に参加しましたが、この大会では全国初の取り組みとして、礼法や寝技のしぼり動作なども団体戦の種目として採用されていました。発達障害のある子も一緒にメンバーとして参加し活躍することができました。それがみんなへの刺激となり、その後の取り組みに変化が生まれました。

最後に
成果としては、最初はあちこち走り回る子が多く、黙想は30秒も続きませんでした。しかし現在では、怒ることもなくほとんどの子が2分間の黙想をできるようになりました。これはすごい成果だと思います。 日々の取り組みは試行錯誤の連続です。それが私自身の学びの場として、指導力向上のために頑張っています。柔道の原点は精力善用、自他共栄による社会貢献です。
私ができる柔道による社会貢献は、柔道による社会問題克服に向けた活動です。それが柔道の価値の向上につながるのではないかと考えています。これを念頭に、これからも活動を続けていきます。

保護者のインタビュー動画(お二人から)

-柔道を始めたことによって動きがしっかりしてきた。大きい運動も柔道で行っている。去年は鉛筆が持てなく、紙に色がつくかつかないか、という状態だった。今はしっかりと鉛筆を持てている。ユニバーサル柔道アカデミーでの子育て等に関する様々な情報交換はとても役に立っている。ゆにじゅ〜に来ればホッとできる、そういう空間なのかなと思っている。現在、子どもが柔道を好きになり、柔道が楽しみになっている。「柔道だけは行かせてくれ!」といったような感じ。他の子も同じような感じだと思う。親もそれを暖かく見守れている。総じて、お互いがお互いを高めあっている良い環境であると思う。

-その子にとって「楽しく学べる」日であること、それが一週間の中で大事になってきていると感じている。ゆにじゅ〜の寸劇(学びタイム)で、自分の悪いところなどに気づけ始めている。例えば、うちの子は「柔道に行くよ」と言っても全く(柔道着に)着替えようとせず、私は何度も怒っていた。しかし、今となっては「柔道に行くよ」と言ったら「お母さん、何時に着替えれば良い?今着替えた方が良い?」といったような言動と行動を起こすようになった。これは、すごい成果だと思っている。うちの子以外もそうだったが、ゆにじゅ〜創立当初は子ども達に全く落ち着きがなく、いろんなところに走って行ってしまって収拾がつかない状況だったが、今となっては先生の適切なスケジュール管理等のおかげで時間通りに並べる、挨拶できる等、規則正しい行動ができるようになってきた。これは素晴らしい。親ではできないと思うし、先生の指導の賜物だと思っている。

以上

presented by 長野敏秀

ユニバーサル柔道アカデミー代表  講道館柔道5段、一般財団法人愛媛県柔道協会理事/強化育成委員、全日本柔道連盟公認B級指導者/A級審判員、全日本柔道連盟少年柔道協議会委員、発達障害コミュニケーション初級指導者NLPプラクティショナー資格取得。大学時代まで全国大会でも活躍する競技生活を歩み、大学卒業後は地元である四国中央市に奉職。地元の柔道会の指導者を20年ほど続けてきたが、勝利至上主義に違和感を感じて新たな柔道クラブを設立することを決意。そして平成27年、「勝つこと」を一旦やめたユニバーサル柔道アカデミーを設立。


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